国内 2021.10.28

折尾愛真高校(福岡)に来春、ラグビー部誕生。サニックスOBが熱き指導誓う

[ 編集部 ]
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折尾愛真高校(福岡)に来春、ラグビー部誕生。サニックスOBが熱き指導誓う
先のジャパン×ワラビーズ後に兄・漠さん(右)と写る森山智さん



 世界最薄ジャージーを着る人の弟の胸板は厚い。元FWだ。
 そして、熱い。
 森山智(さとし)さんはサラリーマンを辞して、50歳で転職を決めた。来春創部する福岡・折尾愛真(おりおあいしん)高校ラグビー部の監督になる。

 兄・漠(ひろし/通称ばくさん)さんは、スタジアムで有名な人だ。ジャージーのデザインを体に直接ペインティングしていることで広く知られる。
 先のジャパン×ワラビーズ(10月23日/大分)の時も、スタンドにその姿があった。

 5歳違いの弟は、近鉄、サニックスでプレーした。八尾東高校、大体大で青春時代を過ごし、積み上げた基礎をもとに31歳までプレーした。
 引退後もスタッフとして長くチームを支えた。リクルート・契約担当として磨けば光る原石を探して回った。
 チームを離れてからは、会社の人事部で採用の仕事に就いていた。

 ハートに火が点くきっかけは、偶然だった。
 高校生の採用のため、社用で折尾愛真高校を訪れたのは今春のことだ。進路指導室で担当の部長先生と世間話をしていると、学校がラグビー部創部を考えていると聞いた。

 その時は、「手伝えることがあれば」と別れた。
 後日、学校から連絡が入った。
 創部の話を具体的に進めたい。指導者として加わってもらえないか。そんな相談を受けた。

「魅力を感じるお話でした」と回想する。
 あたりまえだがラグビーが好きだ。玄海ジュニアラグビークラブで中学生の指導をしてきていたから、子どもたちの未来を拓く日々にやり甲斐を感じていた。
 しかし家族もいる。50歳にしてサラリーマン生活を失うことに不安を感じないはずがない。

 妻に相談した。
「むいていると思う。あなたにピッタリの仕事じゃない」
 人生は短い。思うように生きようよ。
 そんなふうに言ってくれた。
 覚悟は決まった。

 森山さんはいま大学生だ。
 10月中に退職し、教員免許を取得するため、学生時代に取得していなかった単位を得るための勉強をしている。
 そして、ともに第一歩目を歩み出してくれる若者たちの存在にアンテナを張る。はやく会って、熱意を伝えたい。

 一緒にグラウンドに立つ子どもたちに、ラグビーを通して人生の素晴らしさを伝えたい。
 福岡県内には全国トップクラスの東福岡高校など、強豪校がひしめく。しかし、どんなときだって目の前の勝負に勝つための準備に全力で取り組もう。そんな時間を経て試合を迎えたなら、プレーを終えた後、仲間、対戦相手、自分たちの環境に感謝する気持ちがきっと芽生える。
 自分一人だけでは、何もできなかったと気づくから。

 宗像サニックスブルースには、学生時代に華々しい活躍をしていた選手はほとんどいない。
 しかし、日本代表になった選手もいれば、トップリーグで輝く存在に育った者も。その多くをリクルーターの目で見つけてきた。

 森山さんはその選手たちのプレーを見つめつつ、漂わせる空気を大事にしてきた。
 立ち振る舞い。放つオーラ。目に見えるものの向こうにある本質を見てきたつもりだ。
「話してみて、自分が感じていたものとマッチングする時がある。自信を持ってチームに推薦してきました」

 高校の指導者として、そういう少年たちに出会い、ともにクラブの歴史を作り上げたいし、人に認められる人間に育てたい。
 ラグビーは、関わる人をそうできるスポーツだ。
 そう信じている。

 各大学を回って選手を見て、指導者に挨拶し、チームと自分の熱意を伝えてきた期間は財産だ。
 卒業生を送り出す時、築いてきた縁を生かし、次のステージに向かわせてあげられるかな、と思っている。
 その子も、受け入れるチームも、両者が幸せになる出会いを作るのも指導者の仕事の一部。そこに強みを持っているのも、自分の個性だ。

 新しい扉をともに開く未来の教え子たちと早く出会いたい。一生の付き合いの始まりとなる、濃密な3年間を過ごそう。そう言って、握手しようと思っている。
 世界最薄ジャージーを着る人の弟は、情が厚い。

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