慶大・山本凱はコロナ禍もモデルチェンジ期す。元日本代表・栗原徹監督の指摘は
表層をなぞって判断してはいけない。人々にそう思わせた。
関東大学ラグビー対抗戦Aで昨季3位の慶大は9月4日、敵地の東京・明大八幡山グラウンドへ出向く。明大と「30分×2本」の変則マッチは21ー40で落とした。
しかし敗れた山本凱副将は、その結果をフラットに見つめていた。
「点差は離れましたけど、もっと縮めることはできる。きょうは自分たちがよくなかったので」
チームは目下、攻撃中の接点で相手を素早くはがす意識を高めている。練習の成果が試合で現れるようになれば、強敵にも十分に立ち向かえると山本は見ているのだろう。
4月、神奈川県内の寮で新型コロナウイルスの感染が拡大。6月29日にリスタートするまでの間、活動はオンラインミーティングに限られていた。
夏合宿の代わりに先方への日帰りで、もしくは本拠地の慶大日吉グラウンドを使ってトレーニングマッチを実施。早大、帝京大、東海大、さらに今度の明大と、優勝候補に挑んだ。接点に加えて攻防の起点にあたるセットプレーでも課題を感じながら、山本は「いい相手とできた」と感謝する。
活動再開時には、大学当局へ出向いて感染対策の徹底を約束している。周囲への贖罪(しょくざい)の念を抱いたうえで、「他校がやっているなかで自粛するのは不安でしたが、去年もそれくらい休んでいるから…とプラスに捉えました」。寮内の部屋の行き来を制限し、食事は食堂ではなく各々の自室で食べる。
「体育会でやっている以上は、ラグビーが優先順位は高いから…と」
それにしても山本は、件の明大戦で圧巻のパフォーマンスを披露した。務めたのは定位置のオープンサイドFL。低い姿勢でタックルした相手をその場で担ぎ上げるようにし、攻撃の流れを断つ。向こうの接点の球へ絡むジャッカルでも、ペナルティキックを得る。
身長177センチ、体重98キロ。一線級にあっては大柄ではないが、年代別代表に入れば強豪国にフィジカリティで対抗できた。慶應高から内部進学で入った慶大でも、1年時から主力を張る。
一昨季にヘッドコーチの肩書で指揮官となった栗原徹監督は、かつてからこの逸材を「2019年(ワールドカップ日本大会)には間に合わなくても、次の23年(フランス大会)には手を挙げてもらいたい」と評してきた。
現役時代は日本代表のWTB、FBとして2003年のワールドカップ・オーストラリア大会などでプレーした理論派。教え子の強靭さとタフな精神性を高く買う。
それだけに、初の日本代表入りも期待される山本へ注文も忘れない。
「大学のなかでいい選手なのはわかっていますが、さらに上のカテゴリーでいい選手と言われるには課題がたくさんある。それは、本人はわかっています。日々、悶々としていると思います」
伸びしろは「ラグビーナレッジ(知見)」にあると、栗原監督は続ける。攻撃陣形のなかに入ってパスをもらう時、相手防御との間合いやプレーの選択にバリエーションをつけられないかと問う。
「彼は激しい。激しいことはラグビーで大事なことです。ただ、時にはスペースをうまく使うことも必要。状況によって前に行くべき時もあれば、後ろに下がるべき時もあれば、横に動く時もあるなか、いまの彼は前(突進)しかない。チームに『君は前だけでいい』と言われて15分の1のピースにはまれば、上でも通用するかもしれません。ただ、最近はトータルが求められます(チームが選手に万能性を問う傾向が強い)」
栗原監督がこう述べていたのとは別な場所で、山本は今季の個人目標を「オールラウンドにプレーしたい」。出世の手段はわかっている。
「全てのプレーを高いレベルでしたい。タックルも、ボールキャリー(突進)も、ブレイクダウン(接点での動き)も、ラインアウトでのジャンプも」
チームは昨季、2シーズンぶりに出た大学選手権で8強入り。今季はその舞台でトップ4を狙う。関東大学対抗戦Aの8チームのうち大学選手権へ出られるのは5チームで、活動の止まっていた慶大は悲観も楽観もしていなさそうだ。
すでに開幕している関東大学対抗戦Aの初陣は9月18日、神奈川・秋葉台公園球技場で迎える。カードは日体大戦。若手きってのハードヒッターがどう変貌を遂げるか、楽しみが増す。