レジェンドの系譜 全国V2目指す天理大の新SH・藤原健之朗は「最終的には世界で」
血がつながっていないのが不思議なくらいだ。
天理大ラグビー部1年の藤原健之朗には、藤原姓、出身校が日本航空高校石川出身であること、SHという働き場と、前年度まで在籍した藤原忍との共通点が多い。
リズムよく球をさばいて身体を張るプレースタイル、跳ねる走り、フォロースルーの際に少し背骨を丸めるパスのフォームまで似ている。このルーキーを初めて知った関係筋は、「あの(卒業した)藤原の兄弟か」と言い合う。
違った。
身長168センチ、体重70キロでサイドを刈り上げた新人レギュラー候補は、彫りが深い顔を崩した。
「雰囲気も似ていると言われますけど、血縁はまったくないです。ただポジションが一緒で、一緒の出身校だというだけです。大阪出身なのは一緒ですが、中学も違いますし」
話をしたのは8月19日。長野・菅平での合宿中で、流経大を練習試合で50ー0と制した直後のことだ。
夏からレギュラーに抜擢された藤原はこの午後、接点へ駆け寄り球を拾う速さとタフな防御をアピールする。
当の本人は「テンポは速い。自信はある。いつもの自分通り」としつつ、「声を聞くことと、パス(の精度)が課題です」と反省もした。
「SO(司令塔)とはコミュニケーションが取れていたけど、FW、他のBKとのコミュニケーションは取れていなくて、FWに放るか、BKに放るかのところで(味方の)声を自分が聞けていない時があった。BKに放ったら結構(前に)行けたようなところでFWに放ってしまって…というところもあって」
連続攻撃中、狭い区画の穴をランで突く場面も作る。慌てた相手の反則を誘う。ただしそのシーンについても、「結果オーライでしたが、(後ろで待っていた)味方の声を聞いて判断できればもっと楽に得点できた」と応じる。
自分の持ち味を理解したうえで課題を深掘りしようとするさまは、若手のうちから「自分が代表に選ばれているようでは強くならない」と自分に矢印を向けた元日本代表SH、田中史朗とも重なる。
何より田中ら歴代の名手、さらにクボタへ入った天理大OBの藤原と現役学生の藤原に通じる点は、負けん気の強さではないか。
この折の流経大戦では、向こうのボールの密集へ臆せず身体を差し込み、味方のチョークタックルで浮き上がった相手ランナーにも合法の範囲内でへばりついた。自分より大きな敵に臆せずぶつかる心構えは、先人にも引けを取らない。
佐藤康主将に「ラグビーになったら人が変わる。プレーで引っ張る」と愛情たっぷりに語られ、小松節夫監督にはこのように評される。
「(期待しているのは)思い切りのいいところです。(流経大戦では)どれくらい身体を張れるのかと見ていましたが、相手の嫌がるようなこともできていた。粗削りではありますが、経験を積めばもっとよくなると思います」
楕円球との出会いは小学5年の終わり頃だ。やがて同じ高校を出て同じ大学に進む双子の竜之丞とともに、東大阪ラグビースクールへ通う。
「お母さんの友だちの息子さんがラグビーをしていたのもあり、『ラグビーをやったら人が変わるぞ』と、(やや強引に)入れられた感じです。それまでは2人で変なことをして、お母さんに迷惑をかけていたので」
ツインズは足が速く、生徒同士でおこなった「リレーみたいなの」で自分たちのチームが圧勝した。成功体験を重ねるうち、本当に「人が変わった」と笑う。
「ラグビーのことだけを考えるようになって、人が変わったっす」
ノーサイドJrRFCを経て進んだ日本航空石川は、大阪での全国高校大会に出る際にはよく奈良・天理大白川グラウンドで練習する。2年時に端側のWTBからSHへ転じた藤原は、自ずといまの進路を選ぶ。
「同じ航空石川の藤原さんが1年から(天理大)で出ていた。親近感があった。自分もここへ行くんかなぁと」
竜之丞がWTBで1軍入りを目指すかたわら、50メートル走のタイムが6秒フラットという健之朗は正SHの座へ接近している。
前年度に初の大学日本一に輝いた天理大は今季、4年間先発に定着してきたメンバーを多く卒部させている。
司令塔のSOでは東芝に行った松永拓朗、突破役のアウトサイドCTBでは現近鉄で日本代表のシオサイア・フィフィタが抜け、それらの穴を1年生の筒口允之、昨季プレーしたWTBから移る2年のマナセ・ハビリが埋めにかかる。
そして、松永と1年時から司令塔団を組んだ藤原の後釜は、新たな藤原が埋めそうだ。
「SHでプロになって、最終的には世界と戦えるようになりたいです」
6連覇がかかった関西大学Aリーグの開幕節は9月19日、大阪・ヤンマースタジアム長居で迎える。近大との一戦で、前任者の影にとらわれぬ強気の攻めを披露する。