ラグビー王国で着実に階段昇る三宅駿。NZUでの試合、迫る。
8月7日にテムズバレー、同14日にキングカントリー(ともに州代表)と戦うニュージーランドユニバーシティーズ(NZU/NZ大学クラブ選抜)。そのメンバーの中に、「SHUN MIYAKE」の名前がある。
三宅駿はカンタベリー大学に学ぶ19歳。現在、同大学クラブでSOとしてプレーし、NZUにも10番として選ばれた。
172センチ、93キロ。がっちりした体格ながらランにキレがあり、タックルも強い。
NZUは現在でこそ活動が活発ではなくなっているが、以前はNZに来征してきた国代表と戦ったり、海外ツアーに出て強豪チームと戦った伝統と実績のあるチームだ。
日本ラグビーとの交流も深い。日本代表と何度も戦い、最近まで両国間を行き来して様々なカテゴリーのチームと親交を深めてきた。
コロナ禍が終われば、ふたたび交流は始まるだろう。
チームの歴史をひもとけば、日本人では、1960年代から’70年代にかけて日本代表として活躍した坂田好弘氏(キャップ16)がニュージーランドに留学していた1969年にNZUに選ばれたことがある。
三宅の選出は、それ以来のことだ。
同選手は神戸出身。ラグビー好きの祖父と父の影響を受け、5歳のときに芦屋ラグビースクールで楕円球を追い始めた。
最初は野球に加え、ふたりの兄(9歳と6歳違い)同様、サッカーもプレーしていたが、自身はいつの間にかラグビーに熱中していた。
スーパーラグビーが大好きで、いつもテレビ中継を見ていた。中学時代に父と話し、「高校はNZで」と考えるようになった。
「スーパーラグビー、オールブラックスを目指してみたいな、と」
中学2、3年時に兵庫県スクール選抜のメンバーとして全国ジュニア大会に出場、芦屋ラグビースクールの一員として太陽生命カップ全国中学生大会でもプレーした。
夢を叶えるために海を渡ったのは中3の3学期が始まるタイミング。全国ジュニア大会が終わった直後だった(2017年2月)。
ニュージーランドのクライストチャーチ、クライストカレッジに進学した。
留学に備えて英語を学んでいたが、最初はさっぱり分からなかった。しかし、やがて耳が慣れてくる。高校生活を通し、馴染んでいった。
ラグビー部での活動は最初からうまくいった。日本ではCTBやFBだったが、1年目はチーム事情もあってSHでプレー。
2年時からインサイドCTBを任され、やがてファーストフィフティーンになる。
ファーストフィフティーンとして50試合以上に出場し、各年代のカンタベリー州代表に選出された。
サッカー仕込みのキックで得点も重ねた。
現在、カンタベリー大学でスポーツマネージメントを学んでいる。同大学のクラブでプレー。昨年はU19の州代表にも選出された。
大学クラブではSOでプレーする。インサイドCTB時代の経験を活かし、仕掛けるスタイルを好む。
オールブラックスの司令塔、リッチー・モウンガの影響もあり、ランプレーに長けた10番を求める流れがいまのNZラグビーにはある。
その中で三宅のスタイルは魅力的だ。NZU選出も、クライストチャーチのクラブリーグ(カンタベリー・メトロ)でのパフォーマンスを評価された。
本人はNZUへの選出を、「大学クラブに在籍しているという枠はあるものの、国全体から選ばれたのは嬉しい」と話す。
「今年、クルセイダーズのU20に入り、カンタベリーのデベロップメントスコッド(州代表Bチーム)にも入れた。嬉しいですね。キックとランが評価されていると思うので、そこを出してプレーしたい」
現地での生活を、「時間の流れがゆっくりしていて、人が優しく、フレンドリー。気候も良く、ストレスなく生活できています」と話す。
現在は仲間たちと4人暮らし。そのうちの一人はU20NZ代表にも選ばれているというから刺激的だ(LOザック・ギャラハー)。
「大学を卒業するタイミングで、そのときの自分の立ち位置を見て将来のことは考えようと思っています」と話す。
高校時代から築いてきた人脈があり、仲間もいる。NZで生活を続けたい気持ちが最初に浮かぶ。
「スーパーラグビーを目指したいし、そしてオールブラックスになるなんて(日本人は)誰もやったことがないし、可能性は低くてもゼロではないのだから、しばらくその夢を追いたいと思っています」
その一方で、ワールドカップへの出場も夢。12月に20歳になる若者の前には、いくつもの可能性が広がっている。
NZUでの試合が終われば、カンタベリーBとして、オタゴ、タスマン、サウスランドの各州Bチーム同士の試合が待つ。
何戦か出場したU20クルセイダーズでの試合も含め、すべては憧れているチームのセレクションの対象という幸せの中にいる。
個が尊重される社会の中で暮らしているだけに年齢以上の落ち着きを感じるけれど、「母の手作りの春巻きが食べたい」と話す表情に10代の無邪気さが浮かぶ。
数年後、何色のジャージーを着ているだろう。