国内 2021.07.21

中園真司[日野]は指導者に。「チーム全員が同じ方向を向けるように」と願う強い理由。

[ 明石尚之 ]
中園真司[日野]は指導者に。「チーム全員が同じ方向を向けるように」と願う強い理由。
32歳で日野に移籍。温かく迎えてくれたチームメイトに感謝する。「このチームを選んでよかった」(撮影:松本かおり)

 171㌢と小柄な体躯で、相手を振り払う速さと当たり負けない強さを両立させた。
 ヤマハ発動機時代には30ものトライを重ねたウィンガー。日野レッドドルフィンズの中園真司が現役生活に終止符を打ち、指導者の道へ進むことを決めた。

 35歳で迎えたトップリーグ2021はケガに悩まされた。1試合も出場できずにシーズンを終える。
「選手である以上、いつでも試合に出られる準備ができていることが一番大事。(昨季は)それができていなかった」
 プロラグビー選手としての矜持がある。チームにいい影響を与えられていないと感じ、日野在籍3年目で引退を決意した。

 偶然にも公式戦ラストゲームはトップリーグ2020の第4節。10年間プレーした古巣、ヤマハとの対戦だった。
「この試合でケガをしてしまったので、いい思い出とまでは言えないかもしれませんが、印象に残っています。応援してくださったファンの方々が声をかけてくれたり、試合前にたくさん連絡をいただきました。嬉しかった」

 福岡県出身。ラグビーはりんどうヤングラガーズで小学1年生から始めた。明大の頃から見ていたという吉田義人に憧れ、6年時にはプロラグビー選手になると決めた。佐賀工では五郎丸歩と同級生になる。ヤマハでもともにプレーした五郎丸と同時の引退も、「たまたまです」と笑う。

 高校では選抜、花園と日本一に届かなかったが(選抜では準優勝を経験)、2年時に単独校として臨んだ国体で優勝。「もう一度、日本一を」と、関東学大へ進んだ。関東学大ではルーキーでスタメン入りを果たすも、定着できなかった。両WTBには2個上の先輩、小柳泰貴(元コカ・コーラ)と北川智規(元パナソニック)というエースがいたからだ。
「北川さんは足が速くて、小柳さんが強いウイングでした。僕はお二人のいいところを盗んで、速くて倒されずにトライも取り切れる選手になろうと」。これまで貫いたプレースタイルの基盤になった。
 大学選手権は準優勝、準優勝で迎えた3年時に、決勝で先発出場。五郎丸がいる早大を倒して悲願の日本一を遂げた。

 ヤマハにはプロラグビー選手として入団。小学生からの夢を叶えた。だが直後の2009年にラグビー部は強化縮小を受け、プロ契約廃止。移籍するか否か大いに悩んだが、五郎丸をはじめ先輩の山村亮、大田尾竜彦、矢富勇毅らプロ選手が先に残ると決断したから、自分もここで頑張ろうと思えた。おかげで入替戦を経験した4年後に、日本一になる過程を知る  ひとりになった。

 清宮克幸監督の指導は刺激的だった。太田拓弥レスリングコーチや井野川基知ストレングスコーチを招へいし、独自の強化に走る。「流行りに流されずに、チームに合ったオリジナルなものを取り入れる。勝つラグビーとは何かを考えさせられた」。

 徐々に順位を上げて迎えた2014年度の日本選手権決勝。前半26分、中園は五郎丸のワンバンドパスを受けてトライを決めた。後半は0-0。中園のトライが両チーム最後のスコアとなり、決勝トライになった。
「清宮さんについていけば優勝できると思えた。その過程は本当にしんどかったけど、充実したものでした」

 中園はこの7月から指導者としてのキャリアをスタートさせた。同級生で親交のあった堀切輝一(東海大FWコーチ)に誘われ、開校したばかりのバディラグビークラブで週に1度、園児から中学生を教えている。

 指導者として大切にしたいのは、チームの強化よりもチームづくりだ。過去に2度味わった、辛く苦しい経験が中園を突き動かす。

 大学4年時はキャプテンだった。だが連覇を目指して活動する中で11月、部員が大麻取締法違反の疑いで逮捕された。大学選手権の出場を取り止め、活動の自粛を余儀なくされた。
「悔しいよりも、先輩方と後輩たちに申し訳ないという気持ちが強かった。自分たちは卒業するだけだったけど、その後の後輩たちがすごく心配で、すぐに切り替えることはできませんでした」

 昨年には日野の選手が違法薬物使用容疑で逮捕された。またもチームの活動停止を味わう。チームの不祥事を2度も経験する選手はなかなかいない。だからこそ感じることがあった。
「チームの一体感や、チーム全員が同じ方向を向くようなチームづくりを大事にしたい」

 日野に加入してからは特に若手選手との会話は意識的に、積極的にしてきたつもりだ。「若い選手が悩んでいたら話を聞きたいと思っていました」。

「チーム目標に向かう姿勢を一番大切にしたいです。自分の成長だけではなく、隣にいる仲間のことも考える。そうすれば誰ひとり欠けることなく1年間戦っていける」
 中園真司だからこそ作れるチームが必ずある。



7月2日に開校したバディラグビークラブ。体験希望の方は下記リンクより。
http://www.buddy-sports.co.jp/club_school/

■バディラグビークラブ 公式Twitter

ベストトライは2014年度日本選手権での決勝トライ(撮影:松本かおり)
10年間プレーしたヤマハ発動機。五郎丸がもう一度一緒にやろうと言ってくれた(撮影:松本かおり)

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