日本代表 2021.07.10

美技の裏の誠実さ ラファエレ ティモシーは「ひとりで行動しない」

[ 向 風見也 ]
美技の裏の誠実さ ラファエレ ティモシーは「ひとりで行動しない」
アイルランド戦で絶妙なキックを放つラファエレ ティモシー ©JRFU


 仲間と一緒に過ごすうちにレベルが上がったのは、あの時と同じだった。

 今年5月下旬に約1年7か月ぶりの活動再開を果たしたラグビー日本代表は、7月3日、ダブリン・アビバスタジアムでアイルランド代表と激突。大型選手の突進に苦しみ31-39と惜敗も、鮮やかに点を取った。

 6月26日には、エディンバラはマレーフィールドでブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと対戦。2019年のワールドカップ日本大会以来となるテストマッチは、10-28と落としていた。

 グラウンドの端で攻めあぐね、「エッジ(タッチライン際)のアタックをシャープにしなければ」とラファエレ ティモシー。かくして迎えたアイルランド代表との一戦では、よりアタックを機能させる。進化を示した。

 特に冴えたのが、グラウンドの両角をえぐるキック。アウトサイドCTBのラファエレも、この領域に絡んだ。

 10-7と3点リードで迎えた前半14分頃、日本代表が自陣深い位置からハイパント。再獲得。自陣10メートル線付近右でラックを作った。逆側へ展開する。

 ここで3番目にパスをもらったのが、左中間に立つラファエレだった。対面を引き付けながら、さらに左側へ左足を振り抜く。転々とする楕円球へシオサイア・フィフィタが追いついたことで、敵陣ゴール前でフェーズが重なる。

 ここでアイルランド代表は、2度にわたり反則を犯す。日本代表はしぶとくラックを連取する。左中間でFBの松島幸太朗が駆け出すと、その後方へラファエレが回る。松島が向こうのタックルで押し戻されるも、待ち構えていたラファエレが球を譲り受ける。すかさずオフロードパスをつなぎ、命脈を保つ。

 かくして迎えた18分、敵陣22メートルエリア中央で田村優がパス。ラファエレが反応する。防御を破ってインゴールへ飛び込む。結局はスローフォワードの判定でノートライに終わったが、連続攻撃の「フィニッシュ」として鮮やかな印象を残した。

 そして、10-12と勝ち越されていた35分には、敵陣10メートルエリア右中間から左大外へ田村がキックパス。捕球したフィフィタのさらに左をラファエレが駆け上がり、ラストパスをもらうやゴールエリア左隅に飛んだ。

 直後のゴールキック成功で17-12。かように通称「ティム」は、チームの狙いに即した動き、かねてモットーとしていた「相手の同じポジションの選手よりもハードワークする」という決意で試合を彩った。

 13番をつけてスキルと運動量を披露したのは、2年前のワールドカップ時と同じ。その大会の直前には、ハードな長期合宿で味方との阿吽(あうん)の呼吸を作り上げていた。今度のツアーで時間が経つほど調子を上げたのも、自然に映った。
 
「ひとりで行動しない。グループで、チームで動く」

 本人が語ったのは、5月下旬からの国内合宿中。感染症対策について問われ、所定のバブルで活動する旨を明かした。

「ひとりがコロナになると(周囲に広く伝染するなど)問題になるので、好き勝手なことをしないのが鍵です」

 周りと連動する意識を、グラウンド内外で保っていたわけだ。

 サモア出身でニュージーランド育ち。身長186センチ、体重100キロと国内きってのサイズを誇りながらも、スキルとタフさで際立つ。

 さらにはワールドカップの経験者として、フィフィタら今回初選出のメンバーへは「できる限り手助けしたい。自分が入ったばかりの時もたくさん他の選手が手助けをしてくれたので」。29歳と中堅の域に達し、ナショナルチームの文化を紡ぐ。

「いい人間でないと、成長するチャンスはない。正しい姿勢を持っていない選手は、成長するうえでなかなか苦労することが多いんじゃないかな」
 
 誠実さで人と人とをつなぐ姿勢は、あの熱狂から時を経ても変わらなかった。定位置争いが激化するなかでも、「お互いがプッシュし合えるのはいいこと」と己に言い聞かせる。

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