日本代表 2021.06.23

最年長、蹴り合いで献身。日本代表・山中は「リーダーじゃなくても(チームを)リード」

[ 向 風見也 ]
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最年長、蹴り合いで献身。日本代表・山中は「リーダーじゃなくても(チームを)リード」
別府合宿時の山中亮平。日本代表はよく走る(撮影:長岡洋幸)


 もしも定位置で先発したら、当日に起こりうるプレーで鍵を握りそうだ。

 ラグビー日本代表の山中亮平は6月26日、スコットランド・マレーフィールドでのブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦出場を目指す。

 相手は大型FWを揃え、サイズを活かしてスクラム、ラインアウトを圧倒したいだろう。その強みを活かすために用いそうなのが、陣地獲得のためのキックである。接点周辺からは起点のSHが高い弾道を蹴り上げ、追っ手がその球へ飛びつき再獲得を目指しそうだ。

 向こうのキックに対処する役目は、おもに最後列のFBが担う。山中の定位置だ。

「ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズというチームはフィジカルも強いし、大きな選手もたくさんいる。接点、キックの部分は意識しています」

 本人がこう話したのは5月31日。別府合宿の最中だった。

 実際のところ、当時は対戦相手について具体的にイメージするよりも、1日3部練習が主のタフなキャンプを乗り切ることに集中していた。

「(トレーニングでは)ただ走るのではなく、ボールを動かしながら走る、トップスピードに入る回数が多い。足には『くる』かな。夜にはウェイトトレーニングも。自分でケアをしないと疲労がたまっていく。準備は大切にしたい」

 それでも、歴史的なゲームでプレーする際の役目は想定していた様子だ。圧力下での捕球を安定させれば、向こうのしたいプレーを制限させられる。

 自ら語った通り「接点、キックの部分」で際立ったのは、6月12日である。静岡・エコパスタジアムでのサンウルブズとの強化試合に「JAPAN XV」の名義で先発する。前半17分頃、自陣中盤左でハイパントに反応する。蹴った相手はFBの野口竜司。フィールディングに定評がある。

 上空から緩やかに落ちる球へ、山中は、ゆったりとした助走から左ひざを立ててジャンプ。キャッチ。着地するや、目の前まで駆け上がってきてタックルを放つ野口に半身でぶつかる。抜け出す。行く手を阻むタックラーもかわし、10メートルエリアでラックを作る。

 その他の場面でも、キック処理、味方の蹴ったボールを追ってのタックルと、蹴り合いにおける責務を全うする。32-17で勝利。自身のSNSでは、チーム選定のMVPとなったと報告した。

「FBとしての役割については、どんどんレベルを上げていかないといけない。80分を通して安定した、精度の高いプレーを80分通してできるように。フィットネス、フィジカルはもっと成長できる」

 中学2年でラグビーを始めた。東海大仰星高3年時には、司令塔のSOとして脚光を浴びる。早大へ進んでからも長いキックやパスを繰り出し、4年時には初めて日本代表になった。

 本格的に評価されるのは、中堅の域にいた2018年以降のこと。折しも、加入6季目だった神戸製鋼で現職に転向していた。身長188センチ、体重100キロのサイズを攻守で活かし、2019年、自身初出場となるワールドカップの日本大会で5試合に出た。史上初の8強入りに喜ぶ。

 当時は日本大会に賭ける思いの強さから、2020年以降の代表活動は視野に入れられなかった。しかし熱狂の渦にあって、次第に考えを改める。

 大会を終えてまもなくアパレルブランドを立ち上げ、トレーナーが1枚買われるたびにキッズサイズのラグビーボールを1個ずつ作るプロジェクトを企画。それを抽選で定めた幼稚園、保育園に送り届けた。

 主体的にファンとの接点を作るうち、再燃したのが上昇志向だった。活動内容に説得性を付与するには「自分がずっとトップの選手としてやっていかないと」。別府合宿中も、かように心身の充実ぶりを語る。

「現役を続けている以上は、高いレベルでラグビーを続けたいと思っていて。今回、日本代表が久しぶりに活動を再開させた。いろんな選手やジェイミー(・ジョセフ ヘッドコーチ)、ブラウニー(トニー・ブラウン アタックコーチ)とラグビーをやるのは楽しい。モチベーションは高いですね」

 リーチ マイケル主将や攻撃を引っ張る田村優とは同期で、6月で33歳になった。今回のスコッドでは最年長だ。「あまりそこ(年齢)は意識せず頑張っていこうかな」と言いつつ、「同期が多いので、(周りを)引っ張っていきたい」とも続ける。

 チームは数名1組のグループを編み、経験者が新参者にチーム戦術やグラウンド内外のルールを伝える。山中も教える側に回る。

「この何年間か、代表では自分の仕事を全うすることにフォーカスしてやってきました。ただワールドカップが終わったいま、チームをリードしていく立場にもなっている。後輩に声かけたり、練習中にコミュニケ―ションを取ったり。リーダーじゃなくてもリードできるよう、意識したいです」

 空中戦で、地上戦で、グラウンド外で、必要な仕事をし続ける。

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