海外 2021.06.19

これぞ本家本元、ダービーマッチ! バイヨンヌ対ビアリッツの予想不能の結末。

[ 福本美由紀 ]
これぞ本家本元、ダービーマッチ! バイヨンヌ対ビアリッツの予想不能の結末。
熱闘のバスク・ダービーを制し歓喜のビアリッツ。ファンもグラウンドになだれ込んだ(Photo: Getty Images)


 トップ14のスタジアムに観客が戻ってきた。先週末の試合は5000人の観客を動員しておこなわれた。無観客試合の空っぽで無機質なスタンドは寂しかったが、歓声がないからコーチや選手の声をマイクがそのまま拾い、臨場感があって楽しめた。それでも、やはりスタンドに楽隊の陽気な音楽が鳴り響いている方が、お祭りのように賑やかでフランスらしくて良い。

 プレーオフ1回戦、ボルドーはSOマチュー・ジャリベールの正確なPGで確実に得点を積み重ね、PR“ビッグ・ベン”・タメイフナの素晴らしいジャッカルでピンチを切り抜け、クレルモンに25-16で勝利してトゥールーズとの準決勝に進出。ラシン92はSHマキシム・マシュノー、SOフィン・ラッセル、ヴィリミ・ヴァカタワとガエル・フィクーのフランス代表CTBコンビ、WTBテディー・トマ、FBカートリー・ビールと300キャップを超えるBK陣で圧倒的な強さを見せつけ、38-21でスタッド・フランセに完勝、ラ・ロシェルと準決勝を戦うことになった。

 しかし先週末、最も熱く、息もつけないほど激しい一戦となったのが、バスク地方のバイヨンヌとビアリッツの間でおこなわれたバスク・ダービーだ。100年以上の歴史を持ち、お互いのホームスタジアムも5kmほどしか離れていない。昔からラグビーが盛んな地域で、どちらも過去に多くのフランス代表を輩出、また優勝もしている。ビアリッツは2005年、2006年と連続でフランスチャンピオンの座に輝いた後、2014年に2部リーグに降格。バイヨンヌは近年、トップ14と2部リーグを行き来している。

 どちらも熱烈なサポーターがおり、ダービーの週は試合の話で盛り上がる。試合前、スタジアム周辺のバーで両チームのサポーターが、「あの年のダービーはうちが勝った」、「あの時のダービーはうちのドロップゴールで決まった」などとおしゃべりしながら交流。町中がダービー一色になり、お祭りのようだ。

 しかし、今年のダービーは重い緊張感が漂っていた。今季バイヨンヌはトップ14で13位、対するビアリッツは2部リーグで準優勝。2チームで来季のトップ14の1枠をかけて、生きるか死ぬかの戦いとなったのだ。

 試合前のインタビューで、バイヨンヌの方がプレッシャーを感じているのではという問いに、ビアリッツのジャン=バティスト・アルディジェ会長が、「確かに。向こうは降格の危機、うちは昇格のチャンス。でもバスク・ダービーは不合理だ。何が起こるかわからない」と答えていた。

 113回目になるダービーは、ビアリッツのホームスタジアムである、パルク・デ・スポール・ダギレラでおこなわれ、ビアリッツのチームカラーで埋め尽くされた。序盤から激しい試合になり、負傷者が続出した。32分にビアリッツがPGを決め、ようやくスコアが動いた(3-0)。52分にバイヨンヌがPGを返し3-3に追いつき、延長戦となった。
 10分ハーフの延長戦、83分にまずビアリッツがPGを決めて6-3とする。ウォーターブレイクがとられる暑さに、足がつる選手があちこちで見られる。疲労の中で死闘が続き、94分にバイヨンヌがPGを決め6-6と同点に。延長戦でも決着がつかず、PK戦となった。スタジアムは熱狂と興奮で埋め尽くされた。

PK戦を見守るバイヨンヌの選手たち(Photo: Getty Images)

 PK戦を始める前に、レフリーも念のためにルールを確認した。それほど珍しいということだ。サッカーのように各チームから交代で1人ずつ順番に出てきて、22メートルライン正面からゴールを狙う。まず両チーム5人ずつ蹴る。バイヨンヌからスタート、両チームとも全員が成功した。ここからはサドンデスになる。バイヨンヌの6人目が外し、場内騒然となる。次にビアリッツから出てきたのは、背番号8をつけたキャプテンのステフォン・アーミテージだ。誰もが息を止めた。アーミテージがモーションに入る。蹴った。ボールがポールの間、クロスバーを超えていった瞬間に、チームメイトがアーミテージに駆け寄った。ビアリッツが8季ぶりに1部復帰の瞬間だ。サポーターもグラウンドになだれ込みビアリッツの選手たちを取り囲む。みんなで肩を抱き合い、狂喜乱舞。グラウンドを占拠したサポーターが選手に「ブラボー!」「メルシー!」と声をかける。サポーターもビアリッツのゲームジャージーを着ているから、誰が選手なのかわからないほど入り乱れている。コロナ前の映像かと思うほどだ。

最後にPKを決め、ビアリッツに勝利をもたらしたステフォン・アーミテージ(Photo: Getty Images)

 案の定、その熱狂から数時間後、所在地県庁のピレネー=アトランティック県庁から、「観客数上限を超えた動員、入場時のワクチンパスポートのチェックの不徹底、スタジアム内での酒類の販売、観客が試合後グラウンドに流れ込みフィジカルディスタンスもマスクの着用も徹底されていなかった等、感染拡大防止措置の不履行を糾弾する。詳しく調査をおこなった上で行政処分を検討する」という声明が出された。

 やはり2021年だった。

 今週末の準決勝に臨むラ・ロシェルのロナン・オガーラ ヘッドコーチが、インタビューでこの試合について話していた。
「世界最高峰と謳われているリーグの準決勝だ。ハイレベルな戦いになる。この間のビアリッツ対バイヨンヌを見たが、このリーグのほんの入り口に過ぎない試合なのに、試合を見ながら信じられないぐらい興奮した。そしてどうしてフランス人がブレニュス盾(トップ14の優勝盾)と、そのストーリーを愛しているのかわかった」

 どこまでも不合理なバスク・ダービー。バスク地方の人々の郷土愛とラグビー愛、そして一緒に興奮したフランス中のラグビーファン。こういうところがフランスのラグビー人気のベースになっているのかもしれない。バスク・ダービー史だけではなく、フランスのラグビー史に残る試合となった。

観客の熱狂が戻ったスタジアム。喜びを爆発させたビアリッツのファン(Photo: Getty Images)

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