国内 2021.05.24

福岡堅樹、最高のフィナーレ。「ラグビーでやりたいことはすべてやった。何ひとつ後悔はない」

[ 編集部 ]
福岡堅樹、最高のフィナーレ。「ラグビーでやりたいことはすべてやった。何ひとつ後悔はない」
ラストゲームを優勝で終え、ファンに手を振る福岡堅樹(Photo: Getty Images)


 2021年5月23日、東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれたパナソニック ワイルドナイツとサントリーサンゴリアスの頂上対決は、ジャパンラグビートップリーグ史に残る名勝負となった。

「ラグビーにとって、とても素晴らしい日となった。最後のトップリーグにふさわしいファイナルだったと思う。パナソニック、そしてサントリーも、非常によく戦った試合だった」

 パナソニック ワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督は、優勝を遂げたあとの記者会見でそう言った。

 試合前からスポットライトを浴びていたのは、誇り高き青いジャージーの11番をつけた福岡堅樹だった。日本代表として38キャップを重ね、2019年のワールドカップでも大活躍したスピードスター。28歳の福岡は、この試合を最後に現役引退することを決めていた。医師を志し、ラグビーと学業を両立させながら、順天堂大学医学部に合格。春から“二刀流”の生活を送り、ラグビー選手としての最後のシーズンも光り輝いていた。

「パナソニック ワイルドナイツとして自分自身は優勝を経験していないので、後悔がないように、最後はチームのみんなと笑って終えられるようなシーズンにしたいです」

 かねてそう語っていたが、入部して5季目だった福岡は、ワイルドナイツにとって2015年度以来となるトップリーグ制覇に大きく貢献し、有終の美を飾った。

「試合が終わった瞬間は、ホッとしました。前半あれだけリードしながら、後半、競った展開になって、何かひとつ違えば逆転されていたかもしれないというシチュエーションのなかで、最後しっかりリードを守り切って勝つことができ、ああ、よかった…という思いが込み上げてきた。もうラグビーをすることはないんだなと、じわじわと感じるものがありました」

 4月に大学に入学してからは、ラグビーと学業を両立するために、かなりハードなスケジュールで毎日を過ごしていた。コンディション調整はすごく難しかったと正直に語る。しかし、限られた時間を有効に使うことをしっかり意識し、努力し続け、最高の結果につながった。
「引退することについてまだ実感はないですが、いま確実に言えることは、ラグビーでやりたいことはすべてやり切れたということ。何ひとつ後悔はありません」

トップリーグ2021の決勝でも最高峰の走りを披露した福岡堅樹(Photo: Getty Images)

 2年前のワールドカップで世界中のラグビーファンが福岡のスピードに驚いたが、今季トップリーグでもその脚力を存分に見せつけた。開幕ゲームのリコーブラックラムズ戦に始まり、リーグ戦6試合出場で7トライ。プレーオフトーナメントでは2回戦からの4試合すべてでトライを挙げ、計14トライ。決勝では前半30分、SO松田力也からパスをもらうと、2人のタックラーを振り切ってインゴール左隅に飛び込んだ。

「あのシーンは力也としっかりコミュニケーションが取れていて、完全に目が合って、『あっ、絶対に放ってくれる』というのがわかりました。外のスペースを有効に使える状態で、自分はスピードに乗ったままボールを受けることができたので、いつもの形でトライを取ることができました」

 福岡にとって最後のトライをアシストした松田は、試合後の会見に福岡とともに出席し、1歳年上の偉大な先輩について訊かれこう言った。
「日本ラグビー界にも、パナソニックにも、すごく高いスタンダードを示してくれたと思います。ここで引退してしまうのはすごく悲しいし、本当なのかなと僕自身も実感はわかないですが、感謝しかないです。最後、絶対みんなで優勝して送り出そうと思っていたので、実現することができて、チームメイト全員うれしく思っていると思います。パナソニックとしても、堅樹さんがいなくてもいい結果を残し続けて安心して見届けられるように頑張っていきたいです」

 福岡はワイルドナイツについて、「言葉で言い表すのは難しいくらい、本当に最高のチーム」だと言う。自分自身の次の人生に向けての準備も快く受け入れてくれた。「常にみんながサポートしてくれるような、本当に最高のチーム。そのなかでラグビーができたことを誇りに思います」

 福岡を入団時から知るディーンズ監督は、「彼のような才能は本当に類まれで、ラグビー選手としてとても素晴らしく、人としても本当に素晴らしい。堅樹はこれで引退するが、彼が遺したレガシーは、チームとともに、ラグビーとともにあり続けると思う」とコメントした。

 表彰式では、母校・福岡高校時代の恩師である森重隆・日本ラグビー協会会長と握手をした。
「自分がこうして、ここまで自分らしくプレーできたのは、福高での森さんの指導が大きかったと思います。森さんが日本ラグビー協会の会長となって、自分もラグビーを盛り上げる一端として力になれたかなと思っています」

 そして、ファンにはこうメッセージを送った。
「たくさんの応援があったからこそ、僕自身ずっとポジティブに自分の夢に向かってまっすぐ努力を続けてこられたと思います。これまでたくさんサポートしてもらったことを、何か自分の形で恩返ししたい。本当に皆さんのおかげで、最高の形で後悔なく引退することができます。僕は違う道に行きますが、今後ともラグビー界を応援よろしくお願いします」

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