海外 2021.05.20

欧州チャレンジカップも決勝間近。結束固めるモンペリエ

[ 福本美由紀 ]
欧州チャレンジカップも決勝間近。結束固めるモンペリエ
5シーズンぶりの欧州チャレンジカップ優勝を狙うフランスのモンペリエ(Photo: Getty Images)


 フランス国内では、段階的な規制緩和が発表され、5月19日以降はスタジアムに最大1000人の観客を動員できることになった。しかし、6月8日までは夜9時以降は夜間外出禁止が続く。
 国内リーグ「トップ14」の最終節は6月5日。この日は『マルチプレックス』と呼ばれるスタイルで、7試合を切り替えながら全試合同時中継が予定されている。7試合全ての「おいしいとこどり」で最終節をさらに盛り上げようという趣向である。ところがテレビのゴールデンタイムの夜9時スタートで予定されているため、観客にスタジアムに来てもらえない。今季最後のリーグ戦の試合を、少ないとはいえ観客の姿がスタジアムに見られる絵で締めくくる方が来季への希望につながると主張し、リーグ主催団体のLNRは放送局のカナルプリュスに時間を早めるよう交渉している。

 LNRは新型コロナウイルスの感染防止対策を改めて強化。PCR検査を週3回、クラブハウスでのシャワーの使用禁止、移動用のチームバスを1台から2台にし、試合でのトライ後のセレブレーションを禁止とした。これに対しトップ14と2部リーグのチームドクターやメディカルスタッフは「これ以上、現場の負担を増やせない」と、50人以上で抗議の書状を提出した。

 一方でラ・ロシェルでは、自治体で余剰分として廃棄されるワクチンのチームへの接種が始まった。ラシン92もこれに続き、クレルモンでもすでに感染した選手と、接種を希望しない選手以外は、ほぼ全員が1回目の接種を終えたと報じられている。

 トップ14は残すところ2節。1~3位はトゥールーズ、ラ・ロシェル、ラシン92がほぼ安泰。今季これまで全敗のアジャンの14位も動くことがないだろう。プレーオフ進出の残り3席を目指して、クレルモン、トゥーロン、カストル、ボルドー、リヨンにスタッド・フランセも加わった6チームで激しいレースが展開されている。一方、バイヨンヌ、ブリーヴ、ポー、そして今季はモンペリエも残留を賭けて戦っている。

 モンペリエは延期された試合を消化するため、5月8日から29日の間に6試合が予定されている。フィリップ・サンタンドレHCは、トップ14の決勝トーナメントの日程変更や、試合をせずにシーズンを通した勝ち点の平均を当該チームに配分するよう提案したが却下された。

 モンペリエは今季、期待されて加入したスプリングボックスのSOハンドレ・ポラードが開幕後2試合目で膝靭帯を負傷してしまったが、それでもフランス代表のギエム・ギラドを始め、ポール・ヴィレムセ、モアメド・アウアス 、アルチュール・ヴァンサン。南アフリカ代表のビスマルク・デュプレッシー、コーバス・レイナー、ヤン・サーフォンテインという顔ぶれを見れば、選手の個々のレベルは申し分ない。
 しかし開幕から4連敗、年明けのトゥールーズとの対戦で負けた時には13位になり、まさかの降格の危機に。グザビエ・ガルバジョザHCは解任され、ラグビー・ダイレクターであったフィリップ・サンタンドレ氏が臨時HCとして、2015年ワールドカップでフランス代表を監督として率いて以来、初めてグラウンドに立つことになった。

 しかし、その後も5連敗。だが3月に敵地でトゥールーズに勝つと、5月のトゥーロン戦まで8連勝。その間の終盤2試合はタイトなスケジュールにも関わらずボーナスポイントも取得し、ようやくひと息つけるところまで来た。しかも、その間に欧州チャレンジカップの決勝進出まで決めた。

 チャレンジカップとは、チャンピオンズカップの出場権が得られなかったチーム、つまり各国リーグの下位チームによって競われる大会で、今季はコロナ下の特別フォーマットで、チャンピオンズカップでプールステージ敗退した8チームが、チャレンジカップの決勝トーナメントに敗者復活して欧州大会を継続できる。そこでモンペリエは4月にグラスゴー(スコットランド)、ベネトン(イタリア)を下し、5月1日の準決勝ではバース(イングランド)を破り、トゥールーズとラ・ロシェルと同様、トゥイッケナムでの決勝への切符を手に入れた。

 ガルバジョザの解任後、「選手に対して厳しさを求めてきた」とギラド主将は言う。勝てない厳しい冬を自分たちにベクトルを向け、全員で乗り越え、ようやく一つのチームになれた。
 負傷したポラードも、家族がいる南アフリカに帰国して治療を受けた後、1月にモンペリエに戻ってリハビリを続けた。その間、対戦相手の分析ビデオを作りながらチームと一緒に戦ってきた。
 イングランドのサラセンズから今季レンタル移籍しているアレックス・ロゾウスキーは「コロナで一時帰国することもできなくなりずっと孤独を感じていたが、難しい時期を乗り越えるためにチームが団結し、今、チームは一つになった」と言っている。サラセンズでは13番をつけてプレーすることが多かったが、最近は10番でプレーしている。「SOの感覚を取り戻すためにコーバス(レイナー)、ブノワ(パイヨーグ)、ハンドレ(ポラード)がとても助けてくれた」と本人はチームメイトに感謝しつつも「ハンドレと組んで試合できる日を楽しみにしている」とも言っている。

 5月1日におこなわれたバースとのチャレンジカップ準決勝、モンペリエは後半ディフェンスに回る時間が続いたが、14人になっても献身的なプレーでゴールラインを守り切った。60分にはポラードがロゾウスキーに代わって入り、試合復帰を果たした。80分にポラードがPGを成功させると、ロゾウスキーとパイヨーグが真っ先にベンチから駆け出してきてポラードに飛びつき、3人で抱き合って歓喜する姿をカメラは捉えている。

 5月21日にトゥイッケナムで対戦するレスター・タイガース(イングランド)は、2015年ワールドカップで日本代表FWコーチだったスティーブ・ボーズウィックがHCとして今季から指揮を執っており、この5月からは同ディフェンスコーチだったリー・ジョーンズがGMとして合流している。昨季はプレミアシップ(イングランド最高峰リーグ)を11位で終えているが、12位はサラリーキャップ違反で大幅に減点されたサラセンズだった。しかし今季は現在6位。チャレンジカップではアイルランドの強豪アルスターに勝利しての決勝進出を果たし、強化の成果が見えてきている。チーム作りにさらなる勢いをつけるためにも、レスターも優勝カップを手にしたいはずだ。

「決勝戦というのは、選手のキャリアに大きな影響を与える。このチームは、チームの成長のために歴史を作る必要がある」とサンタンドレHCは言う。チャンピオンズカップ同様、熱戦が期待される。

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