開幕6連敗から掴んだ待望の初勝利。チーム最年長、生方信孝が見せた涙[Honda HEAT]
ノーサイドの笛が鳴る。
苦しんで苦しんだ分、男は涙を堪え切れなかった。
4月10日のリーグ戦最終節。開幕6連敗で迎えたHonda HEATは、三菱重工相模原ダイナボアーズに55―7で勝った。2か月間待ち望んだ勝利に、勝ち点「5」が与えられる。翌日の結果を受けて、チームは一気に6位まで上がった。
試合を終えてグラウンドを去るとき、ホンダのWTB生方信孝は不本意にも涙した。
「なんで泣いてしまったかは自分でもわからないですけど、ほんとに苦しかったんで。もちろん勝ててほっとしたのもあるし、『これだけできた』というか、俺たちはやっぱり強いんだと思えて(涙が)出てしまったのかもしれないですね」
3月で33歳になった生方はチーム最年長としての責任も感じていた。さらに今季は全試合で14番を背負い、フル出場。最終節も最後までピッチに立ち続けた。
「フィールドに出させてもらっている以上は結果を出さなければいけないと、常に考えていました」
ホンダはこの日、3トライ以上の勝利で得られる勝ち点5を狙うために、PGの選択肢を捨ててトライを取ることだけに集中した。迷いの消えたアタックは序盤から炸裂する。
前半10分に初先発のSO呉洸太がインゴールに飛び込んだ。これは味方のオブストラクションがありトライは認められなかったが、自分たちのアタックで崩せていた。その6分後にモールから先制トライを奪う。続く22分には、日本代表キャップ1を持つ32歳のCTB森川海斗がハンドオフを駆使して外側を走り切った。
そして26分に三菱重工のローランド・アライアサが危険なプレーで一発退場。流れは完全にホンダへと傾いた。終わってみれば8トライ差のつく大勝。得点力のなさが課題だったホンダがようやく本来の力を取り戻した。
生方もその勝利に貢献する。徹底したハードワークで走行距離は8㌔を超えた。チームで断トツの値だった。後半28分にはトライも挙げる。そんなチーム1のハードワーカーは常に声も出し続けた。
『大丈夫!大丈夫!まだ敵陣!敵陣!』
ミスが起きた時、劣勢の時こそ声が出る。反対のタッチライン際でスクラムを組むFWまで届いた。
「FWは特に若手が多い。僕が鼓舞することで一本のスクラム、一本のモールでいいものを組んでくれたらいいなと」
加入11年目の生方にとって、こうした大型連敗は初めてではなかった。昇降格を繰り返していたホンダの過去を振り返れば、そんな経験は何度もある。直近でも2016年シーズンには開幕8連敗を喫していた。
「正直な話、過去にはそうなったときにチームがバラバラの方向を向いたり、他責にしてしまったりというのがありました」
だが今季そうはならなかった。そこに生方はチームとしての成長を感じた。
「負けている中でも、チームがバラバラになることはありませんでした。全員が同じ方向を向いているのをすごく感じた」
6連敗の原因はマインドセットにあった。
勝てなければ自信が失われていく。徐々に消極的なプレーを選択するようになった。ミスのできないプレッシャーも不必要にかかれば、盛り返すような勢いは生まれない。それがリーグ戦の後半に起きた負の連鎖だった。
だから第6節の東芝戦が終わった後、小林亮太主将はチームにこう説いた。
『自分たちのやってきたことは間違ってない』。三菱重工戦では『ボールを持ったら、自分がやるんだという積極的な気持ちを持とう』と。
「たくさんミーティングをして、自分たちがどうするべきかの柱を小林がしっかりと立ててくれました」
気持ちの持ち方ひとつで、チームはガラリと変わった。
「マインドを変えれば、ここまでできるというのがわかった。自信になりましたし、プレーオフに向けて勢いに乗れる。ドコモに勝つことも絶対にできる」
初のベスト8入りに向けて、遅くはなったけどようやく戦うマインドができあがった。
4月25日には愛知の瑞穂で今季好調のNTTドコモと対戦する。
次、流すなら堂々と流せるうれし涙にしたい。