日本語上手な南アフリカ代表ジェシー・クリエル、キヤノンで己の「本質」示す。
2021年に来日中の他国代表のラグビー選手にあって、もっとも熱心に日本語を学ぶ1人だろう。
南アフリカ代表46キャップ(代表戦出場数)を誇り、キヤノン在籍2年目となるジェシー・クリエルは、現在、週に3度は日本語のレッスンを受けている。
本人が、ほぼネイティブに近い発音で述べる。
「コロナの前、日本語の先生はウチに来ていました。いまはオンライン。この状況は難しいね。日本語の先生は安藤先生です(東京外国語センターの安藤成樹さん)。めちゃめちゃいい人。いい友だち」
日本代表のリーチ マイケル主将は高校時代から17年もこの国にいて、ひと際、日本語が流暢だ。それでも「潜在能力」をはじめとした日本人でもあまり使わないフレーズは、聞き手に意味を確認しながら伝える。
その他、誤解を避けるためかなるべく英語を使う日本国籍保持者もいるなか、2015年度に1季だけNTTドコモに所属し、2019年からキヤノンに加わった27歳が「この状況は難しいね」との調子でつぶやく。聞き手を驚かせる。
周りと円滑にコミュニケーションが取れれば、競技生活もより快適に送れそうだ。自身が務める背番号13のアウトサイドCTBに関して聞かれると、クリエルは通訳を介しこう説く。
「13番にはディフェンスライン全体を引っ張り、コントロールすることが求められます。いつ前に上がり、いつ圧力をかけるか(の判断が肝)。スプリングボックス(南アフリカ代表)を含め、どのチームでも13番がディフェンスのキーになる。日本人にもそれを伝え、日本のラグビーにとってもいいものをもたらしたいです」
2014年からは母国プレトリアのブルズに在籍。NTTドコモにいた時期を前後し、国際リーグのスーパ―ラグビーに足跡を刻む。2度目の日本挑戦の前にあったワールドカップ日本大会では、通算3度目の世界一に輝く自国代表の一員となった。
身長185センチ、体重95キロと恵まれたサイズで加速力がある。2018年度に16チーム中12位と低迷したキヤノンでも、その資質を活かす。
2月21日の初戦ではNTTドコモに逆転ペナルティゴールを決められ、以後は優勝候補の神戸製鋼、パナソニックと順に屈して開幕3連敗。それでも、明るい世界王者は動じなかった。
「うまくいっていない時こそ、(それぞれの)本質が現れる。結果が出ても、出なくても、選手として、チームとして、やっていることを信じるのが大事です」
3月14日、静岡・ヤマハスタジアムでの第4節。今季就任の沢木敬介新監督は、「自分たちの新しいスタイルにチャレンジする」。ペナルティキックを得れば陣地を問わず速攻を仕掛け、フェーズが重なるなかでも複層的な陣形を作り続ける。
3度目の先発となったクリエルは、そのスタイルに則り豪快なラインブレイクを重ねる。5季連続で4強入りのヤマハを40-32で下す。
「いいマインドセットで臨めて、やりたいゲームができ、結果にも現れた」
さらに続く27日の第5節では、リコーを31-28で制して2連勝を挙げた。
7-7と同点で迎えた前半29分、自陣22メートル線付近の左中間でのジャッカルでペナルティキックを獲得。間髪入れずに攻め始める味方を援護し、前進する。
後半33分には、28-28と追いつくきっかけとなったトライをWTBのホセア・サウマキが右隅に決める。その手前の攻撃ラインでは、クリエルがおとり役として右側の防御を中央近辺に引き寄せている。
その他の場面でも、13番は躍動した。相手と間合いを取ってパスをもらえば軽やかなフットワークでタックラーをかわす。守りの分厚い箇所へ突っ込んでも、数歩、前に出る。手にした球は絡まれず、味方の側へ置く。
「目の前のタスクに集中して、いいプレーをする」
ここで示されたのは、何事にも全力を尽くすこの人の「本質」だ。異国の複雑な単語を操る冒険者は、これから先のゲームでも確かなインパクトを残すだろう。