網をくぐり抜ける。リコー新加入のアイザック・ルーカスは「常にいい選手になりたい」。
さながら忍者だ。
チームの攻撃陣形のやや後方で構え、手前のFW陣が相手防御をひきつけるタイミングでパスを受け取る。網をくぐり抜ける。
オーストラリア出身のアイザック・ルーカスは、2021年2月からのジャパンラグビートップリーグでリコーの10番をつけて4戦連続で先発中だ。
身長179センチ、体重84キロと細身も、位置取りの妙と軽やかなフットワークでチャンスを広げる。
芝の外では殊勝な態度。
「僕たちのやるシェイプ(攻撃陣形)はFWがいい仕事をしているから成立する。FWがしっかり正しいラインを走り、ディフェンスを引き付けることで、僕にスペースを与えてくれる。幸運にもいくつかラインブレイクはあるにはありましたが、全員がプレーした結果、僕が抜けている。チームのラインブレイクだと思っています」
実際には1人で局面を打開していそうな時もある、弱冠22歳のランナー。オーストラリアはブリスベンの出身だ。母国では20歳以下代表に選ばれており、スーパーラグビーのレッズでもプレー経験がある。
来日したのは兄の勧めからだ。2019年度加入で7歳上のマット・ルーカスから、「チームの文化についてたくさんいいことを教えてもらいました」。確かに同部は近年、若く勤勉な逸材を積極的に登用していた。
ワールドカップ2015イングランド大会日本代表でLO兼FLのブロードハースト マイケルが34歳で健在のかたわら、2016年加入のFL、NO8、松橋周平がルーキーイヤーに代表デビューを果たして昨季から共同主将に就く。
2020年度入社のルーキーでは、元明大主将でHOの武井日向がこのシーズンで開幕からの4戦で3度、先発することとなる。
結局、その輪へ加わった通称「ザキ」はいま、同期入団でCTB、FBとして活躍するメイン平と切磋琢磨。2歳下でニュージーランド留学経験のあるバイリンガルへ謝辞を述べつつ、上昇気流に乗ったチームについて前向きに語る。
「去年、ここで平に出会えたことは幸運です。来日前は彼のことはまったく知らずにいましたが、オンフィールドでも(戦力として)大事な存在なうえオフフィールドでも助けてくれています。彼は私と日本人選手たちとのつながりを作ってくれる。リコーには負けて惜しいと思うのではなく、もっと勝ちたいという精神がある。いま、その部分がビルドされている気がします。若いグループがよくなっていて、その周りには経験者もいる。今後に向けて、そのバランスは正しいと感じます」
今季はパナソニックとの開幕節で14-55と大敗も、第2節では2018年度まで5季連続4強入りのヤマハに23-22で勝った。
第3節でニュージーランド代表SHのTJ・ペレナラを擁するNTTドコモに17-22、第4節では2018年度王者の神戸製鋼に19-20と僅差で屈しているが、直近の神戸製鋼戦では再三、自陣ゴールエリアで失点を防いだ。
ルーカスは「あと少しで勝てるというところが勝ちに変わる。その手ごたえも感じています」。以後はより陣地獲得を意識すれば、過去最高の6位を超えられると言いたげだ。
「タイトマッチで勝てなかったのは残念ですが、多くを学びました。正しいエリアでプレーすることです」
2013年度から昨季までゼネラルマネージャー兼監督という肩書だった神鳥裕之監督は、6月以降に明大監督に就くのではと報じられる。本人はその件についての明言こそ避けるが、部員へはかなり前に今季限りで退くと伝えている。
集大成を示す。
「大会前に注目されるワールドクラスの選手がいるわけではないなかで力を発揮するには――流行りすぎていて好きな言葉ではありませんが――ハードワーク(が必要)。ボールを持っていない時や起き上がる時の態度、味方がラインブレイクをした後、された後の努力…。このようにハードワークの定義をクリアにし、それを体現できるメンバーをグラウンドに揃えました。チーム全体で戦う。それをリコーのスタイルにしよう…と」
その指揮官から開幕前から「若く、本当におもしろい選手」と期待されていたのが、若きブロンドの忍者なのだ。
チームとは2年契約を結ぶ。この国での代表資格の取得に話題が及ぶと、「それはあまり意識していません。いまはいいラグビーを、この瞬間、ここでやりたい」と述べるのみだ。
「常にいい選手になりたい。それだけを考えています。判断すべきタイミングでやりたいことがわかるための準備をしている、という感じでしょうか」
一戦必勝が流儀か。3月27日には東京・秩父宮ラグビー場で、キヤノンと第5節をおこなう。
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