国内 2021.03.22

日野のオーガスティン・プル、八面六臂の働き。「計画を遂行でき、誇りに」

[ 向 風見也 ]
日野のオーガスティン・プル、八面六臂の働き。「計画を遂行でき、誇りに」
ボールを手にプレーメイクするオーガスティン・プル(撮影:高塩隆)


 ずっと雨でもいい。日野のニリ・ラトゥは言う。3月21日、東京は秩父宮ラグビー場で国内トップリーグの100試合出場を達成した。

「雨は試合のダイナミック性を変えてくれる。私がプレーするFW対FWの色が濃くなる」

 躊躇なく正面衝突する身長183センチ、体重104キロの39歳。水しぶきの舞う3月21日の第4節に、FWのNO8として先発フル出場する。

「雨が降ると試合のスピード感は遅くなるが、フィジカリティの濃度は高まる。気に入っています」

 2007年から8季在籍した古巣のNECに10-7で勝利。マン・オブ・ザ・マッチに輝く。元トンガ代表主将でもあるラトゥは、こう笑うのだった。

「残りの試合、全て雨が降ってくれたらいいなと」

 ともに未勝利同士で迎えた一戦。13日に千葉・柏の葉公園総合競技場で実施予定も、雷で日程と会場が変わっていた。

 後の勝者は1対1で首尾よく前に出ながら、風上の前半をスコアレスドローで終える。

 ハーフタイム直前の37分頃には、敵陣深い位置でペナルティキックを得ながらその場でラックを連取するよう動いていた。スタッフから「Shot!」の声を浴びながら、トライを狙ったのだ。

 落球する。

 得点機に初めてペナルティゴールを選んだのは後半4分が最初で、その時は失敗に終わる。点差を広げる機会を逸したようにも映る。

 ただし、意思決定者たる堀江恭佑共同主将は「不安はなかったです」。FLとして身体をぶつける感触から、混乱せずに過ごせたようだ。

「スクラム、モール、近場のラックサイドでの手応えはあったので。(最後は)ミスがあったり相手にボールを獲られたりしましたが、やりきったうえでの結果だったので仕方がない」

 続く8分、ラインアウトからのモールとラックの連取でようやく均衡を破る。7-0。まもなく光ったのが、オーガスティン・プルのファインプレーだ。

 日野は、得点した直後のNECボールキックオフで捕球ミス。自陣22メートル線付近左で相手にスクラムを与える。悪化する流れを断ったのが、日野のもうひとりの共同主将、プルだったのだ。

 防御網を破った向こうの走者が倒れるや、ジャッカルを繰り出す。ノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘い、同僚の手荒い祝福を得た。

「あそこでボールを獲った時は安心しました。その前にタックルを決めてくれた選手のおかげで私が仕事をできた」

 プルはその次の局面で、モールの脇から鋭いサイドアタックを繰り出す。間もなく味方のキックを自軍のスペースへ蹴り返されるや、一気に駆け戻る。八面六臂の働きだった。

 元ニュージーランド代表で加入3季目の31歳は、冷静でもあった。7点リードで迎えた後半35分に自軍選手の故意と取れる反則でペナルティトライを与え、当該プレーヤーの一時退場処分で数的不利を強いられてもなお、態度を変えなかった。

「基本的にはゲーム中ずっと、敵陣22メートルエリアを目指そうと意識し、戦いました。向こうのチームがなかなか(キックで自陣から)脱出できないという状況も想定していました。それに対し、我々はロングキックを蹴って敵陣から相手を逃がさない意識で臨みました。計画を遂行でき、誇りに思います」

 キックオフ直後の蹴り合いから敵陣中盤左でラインアウトを得ると、ゆったりした球さばきで味方FWにコンタクトをさせる。ゲインラインを切る。

 ここではNECのタフなタックルで楕円球を確保しきれず、直後のスクラムをつぶして笛を吹かれる。ただしその次のNECボールラインアウトをLOのディネスバラン・クリシュナンがスティールすると、プルは高い弾道を蹴り上げ陣地を獲る。後半38分になった。

 ルーズボールの再獲得から、プルは改めて簡潔にフェーズを重ねる。敵陣10メートル線付近左から同22メートル線付近右まで。左右に目を配り、丁寧にパスをつなげる。

 守る側がペナライズされたのは、試合終了のホーンが鳴った直後のことだ。

 NEC陣営では元イングランド代表SOのアレックス・グッドがレフリーに詰め寄り、それ以外の1人は「まだ終わってないよ!」と叫ぶ。

 公式記録で42分、FBとして登場して約5分の田邊秀樹がポールの真ん中を射抜く。勝ち越す。

「2週間を通し、この天気を想定しながら練習していました。コーチ陣から的確な情報と準備が設定されたので、私たちは共通認識を持ってプレーできました」
 
 プルの言葉通り「天気を想定」したプレーを希求し続けた末、ラトゥ好みの内容と結果で戦い終えた。

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