国内 2021.03.08

やりたいことをやり切る難しさ。NTTコム、クボタの開幕3連勝許した背景。

[ 向 風見也 ]
やりたいことをやり切る難しさ。NTTコム、クボタの開幕3連勝許した背景。
セットプレーに自信を持つクボタ。パワフルなFWがNTTコムを圧倒する(撮影:福地和男)


 やりたいことをやり切れた。

 3月6日の国内トップリーグ第3節。お互い、千葉県内の拠点から東京は江戸川区陸上競技場へ集ったダービーマッチだ。

 NTTコムを34-24で制したクボタのFLのピーター・ラブスカフニは、ゲーム主将として総括する。

「毎回、自分たちがやりたいことができなかったなかでも切り替えていけた。ここはポジティブな点でした」

 日本代表でもよく同職を担う32歳が言及するのは、空中戦のラインアウトと、その直後に組むモールについてだ。

 5-3として迎えた前半15分頃、スクラムで反則を誘って敵陣ゴール前右へ侵入し、ラインアウトをもらう。

 ここでは捕球役と支柱役の呼吸が合わず球を逸するも、まもなく敵陣中盤右でラインアウトを再獲得し、今度は首尾よくキャッチ。塊を作って進む。両軍通じて最長身という205センチのルアン・ボタがLOへ入り、軸となっていた。

 やがてNTTコムの反則を誘うや、さらに飛んで、組んで、スコアを12-3とした。やりたいことに何度も挑み、やり切り、リードを広げたのだ。ラブスカフニは続ける。

「我々はラインアウト、モール、スクラムにはプライドを持っています」

 簡潔に敵陣へ入って大型FWの圧力を活かしたかったクボタに対し、NTTコムは看板の展開攻撃に賭けた。

 ところが9点差を追う前半20分以降、しばらく目論見通りに過ごせなかった。NTTコムが長いパスを通した先へは、クボタのタックラーが鋭く駆け込んでいた。攻める側は、大きく球を回しながらも後退させられる。

 NTTコムにとって前半唯一のトライシーンは、元スコットランド代表SHのグレイグ・レイドローのキックがきっかけだった。飛び出す防御の裏側へ浮かせた球を、アウトサイドCTBのシェーン・ゲイツが捕球し、逃げ切った。

 それでもチームがやりたいことは「外にボールを運ぶこと」だと、LOで共同主将の中島進護。この午後も「クボタのラインスピードが速いのは認識をしていたのですが、まず自分たちが何をやるかが大事」。パスの受け手が防御網に引っかかっても、しぶとく接点を作ってパスの出しどころを探すつもりだった。

 悔やまれるのは、やりたいことをやり切るための条件を揃えられなかったことか。ゲイツは、防御をいなし左右へ球を振るにはもっと深めに位置取るべきだったと嘆く。

「自分たちから(相手との)間合いを詰め過ぎないよう、足の速度を抑えたうえで外にボールを運ぶ。(間合いを)詰めてきている相手がいるのであれば、そうしたメッセージを(外側の選手が)内側へ伝える。これが我々の準備してきた対策でした。しかし、フィールドの真ん中の部分で(圧力が)かかってしまうと(対策を遂行するのが)難しくなる」

 これでNTTコムは2連敗(1勝)。試合開始早々、さらにはクボタに22-10とされた直後の後半3分頃と、自軍キックオフから大きく突破され失点の契機を作ってしまっていた。中島は「簡単に相手にボールを渡してしまい、簡単にトライを取られるケースがあった」とも反省する。

 かたやフラン・ルディケ ヘッドコーチ体制5季目のクボタは、実力者の絆を深めて開幕3連勝を決める。ラインアウトとモールを支えたボタは、中央エリアで相手を羽交い絞めにしたり、レイドローのキックを両手ではたき落としたりと、守りでも汗をかいた。

 接点でタフだったラブスカフニもまた、「ディフェンスではハードワークできた」とうなずく。ここで話題にしたのは、NTTコムのやりたいことを封じる態度についてだ。

「NTTさんもいい(攻撃の)フォーメーションを持っていて、そこでのバトルが楽しみだった。結果が出たのは嬉しいです」

 立川理道主将に代わりインサイドCTBで今季初先発のライアン・クロッティは、ニュージーランド代表でも買われた運動量で防御網を支えた。朗らかに言う。

「NTTコムがボールを保持するのはわかっていた。ラインスピード(鋭い出足)でプレッシャーをかけることを練習してきました。ディフェンスは結局、努力(で決まる)。チームメイトのために。結局は、そこです」

 クボタはモールに加え、守備にもフォーカスしていた。NTTコムがやりたいことをやり切れなかったのは、クボタがやりたいことをやり切れた証でもあった。リーグ不成立となった昨季はクボタが1点差で白星という好カードは、現時点における両軍の業務遂行力に伴いスコアが決まった。
 
 クロッティは戦後のオンライン会見へ出て、画面の向こうに「マタネ」と手を振り離席した。

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