国内 2021.03.04

「自分に足りていないものを見つける」。箸本龍雅、サントリー入りの背景。

[ 向 風見也 ]
「自分に足りていないものを見つける」。箸本龍雅、サントリー入りの背景。
明治大の主将だった箸本龍雅。大学選手権の準決勝で敗れたあと、天理大の小松節夫監督に挨拶(撮影:松本かおり)


 生き様で人をひきつけたい。あえて目標を定めずに日々、進化したい。

 明大ラグビー部2020年度主将の箸本龍雅がサントリーへ加わる。3月1日、同社に発表される。2月に始まった今季の国内トップリーグへは、最短で4月から出られる。

「社会人としても成長できるし、日本一を狙える。そう思って、サントリーに決めました」

 本人が『ラグビーマガジン』の取材に応じたのは1月中旬。学生ラストイヤーを振り返りつつ、将来設計も語る。

 競技を生業とするプロ選手への道も将来的には「なくはない」としつつ、まずは仕事とプレーを両立する社員選手として活動したい。

 大学にいる間に「7~8個」は受けたラブコールのうちトップリーグ過去優勝5回の強豪を選んだのは、先輩部員が頻繁に業務用フォルダを開く文化と、よりよく生きたい己の価値観が合致したからか。

「社会人としてやるなら中途半端にはやらず、人付き合いなどのいろんな勉強をし、成長できたら(と思った)。サントリーでは、オフシーズンは特に選手が普通の社員さんに近い形でやっている」

 東福岡高、高校日本代表でも主将を担った大らかな青年は、簡潔に心を明かす。自分の行動が周りに与える影響を、時折、考える。

「『箸本龍雅はラグビーで世界と戦っているけど、普段は働いているんだよ』って知ってもらえたら、周りからは『自分も頑張ろう』と感じてもらえて応援されやすいんじゃないか…。いまのところ、自分のなかではそう思っています。働きながらラグビーをするって本当に大変なことだと思うんですけど、それをすることによって元気を与えられる」

 身長188センチ、体重106キロ。FW最後列のNO8で軽やかかつ強烈なラン、献身的な防御を繰り出す。20歳以下日本代表としても活躍し、昨季オフにはサンウルブズの練習生としてスーパーラグビーに近づいた。

 今後も国際ラグビー界での飛躍が期待されるなか、当面、日本経済にも軸足を据える。

 目指す理想像を具体的にイメージできていそうに映るが、当の本人は「自分がどうなりたいかって(言われると)、難しいなぁって思います」。続けて口にするのは、選手としての皮膚感覚だ。

 小学1年で始めたラグビーに本腰を入れ始めたのは中学時代。福岡県スクール選抜に入り、東福岡高の選手たちと練習したあたりから、向上心をかき立てられた。

 談話のなかにある『こうなった』は、「その時々の自分のありよう」を表していそうだ。

「『こうなった』という感じなんですよ、僕的には。僕、中学の時はラグビーを知らなかったし、家族もやっていない。そんななか『やられた!』って刺激を受けてから、全部が始まっている。これからトップリーグの強いチームに入るので、いろいろと通用しない部分もあると思うんです。それを修正しながら『こうなった』みたいな感じになる。自分に足りていないものを見つけるところから、まず、始まるのかなと」

 生き様で人をひきつけたい。あえて目標を定めずに日々、進化したい。新たなフィールドでの決意を他者にそう解釈されると、本人は「そんな大したことじゃないですよ」と謙遜した。

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