国内 2021.03.03

勝利と普及はチーム進化の両輪。コロナ禍でも知見のシェアを続ける神戸製鋼の矜持。

[ 編集部 ]
勝利と普及はチーム進化の両輪。コロナ禍でも知見のシェアを続ける神戸製鋼の矜持。
人々を惹きつける神戸製鋼のラグビー。そのエッセンスを知ればラグビーがうまくなる。(撮影/毛受亮介)



 王者の条件は、勝つことだけではない。神戸製鋼コベルコスティーラーズは、こんな矜持を持っている。
 2月20日、21日に始まったトップリーグ2021。同チームは開幕2連勝と、好調な滑り出しを見せている。
 好プレーで、多くのファンを笑顔にしている。

 勝つことで応援者たちを喜ばせる神戸製鋼は、グラウンドの外の活動にも積極的なチームとして知られる。ファンサービスはもちろん、普及活動にも熱心に取り組んできた。
 新型コロナウイルスの感染拡大が世界を混乱させて約1年が経った。その途中にも、選手が子どもたちを相手に講演をしたり、体験会に参加することがあった。以前のように、多くの選手たちが多くの若者たちと触れ合うことができない状況は続いているけれど、普及のスピリットは折れない。

 グラウンド上のトップランナーにとどまらず、すべての面で先頭に立つ意志を持つチームは、この混乱期でも普及の動きを止める気はない。
 ラグビースクールでの活動や部活動に励む子どもたちへ、なんとかアプローチする術はないかと考え続けている。

 そこで出会ったのが『BUKATOOL』(ブカツール)だ。
 住友商事が実証を進めているスマートフォンなどで活用できるアプリで、部活動を支援する成長スキルシェア・プラットフォーム。それを使い、神戸製鋼ラグビーの知見をシェアする活動を始めている。
 福本正幸チームディレクター(以下、TD)は言う。
「これまでの普及活動は、誰かが現場に足を運ばないと実現しませんでした。だからコロナ禍の中では、思うようにアイデアを実現できませんでした。『BUKATOOL』の存在は以前から知っていましたが、実際に教えに行けなくなったいま、こんなに活用できるのか、と感じています」

 神戸製鋼は、『BUKATOOL』の中でラグビーのスキル教材作りに協力している。その内容を見た福本TDは、「映像で細かなところまで伝えられています。自分が子どもの頃にこれがあったら、もっと上手くなったのに、と思いますね」と笑う。
 コンテンツ作りの中心となっているのは水間良武ディペロップメントコーチだ。選手たちがモデルとなり、技術や練習方法を紹介する。

 水間コーチが言う。
「『BUKATOOL』で紹介しているスキルは、オールブラックス、日本代表、神戸製鋼にも、中学生、高校生にも必要なものです。皆さんは朝起きて、顔を洗い、歯を磨く。以前は親に言われてやっていたことを無意識にやっていると思います。ラグビーの基本スキルもそうなれば、試合中の疲れた時とか、プレッシャーがかかった中でも正しい選択をして、正しくスキルを発揮できるようになる。どの年代、どのレベルでも必要なスキルを身につけるための動画を提供しています」
 それぞれのチームが、やりたいラグビーや、目指したいスタイルを持っているだろう。
「それに必要な土台の部分をしっかり身につけるための練習法を紹介しています」

 U20代表のヘッドコーチを務めるなど、若者世代に造詣が深く、部活動を指導する学校の先生たちとの交流もある同コーチは、現場の抱える問題も知る。
「海外の選手に比べ、日本の選手はテクニック面は上手なのに、それを接戦や圧力がかかる中では発揮できないところがあります」
 基本スキルの習熟度が足りず、自然に体が動くレベルにまで達していないことと、メンタル面や体力面がともなっていないことが理由だ。
「まず、自分たちはどうなりたいのか。それをイメージすることが大切です。それが決まれば、実現するためにどう取り組むのか、となる。仲間とプレーしたいから始まり、勝ちたい、そのために作戦を練ろうとなる。その作戦を成功させるためのツールも『BUKATOOL』では紹介しています」

『BUKATOOL』には、ラグビーのスキルを伝えるコンテンツのほか、メンタル面、走力やS&C面など心技体のスペシャリストのコンテンツが網羅的に提供されている。スポーツ庁の運動部活動改革プランにも採択されており、活動予定の管理や練習や試合などの活動模様を部員のみならず父母やOB・OGにも共有できる仕組みもあり、現在全国12校が利用を開始している。
「ラグビーそのものに教育的要素も含まれてはいますが、より専門的にメンタルのことを学びたい人のためのコンテンツもある。自分に必要なものを選択できる世の中ですから、そんなニーズに合っていると思います。S&C面も同様ですね。特に若者は、動画で情報を収集し、理解する世代です。先日は女子日本代表のコーチングをしたのですが、事前に動画を見せてグラウンドに出るといろんなことがスムーズにいく。オンラインとオフラインをミックスさせると理解が進みます」

 コンテンツ作りに協力する選手たちの姿を見て、福本TDは、「みんな楽しんでやっているし、教えることが自分自身の成長につながっているように見えます」と話す。
「重一生や山下楽平など、以前から普及活動に積極的だったし、教え方もうまいですよ。子どもたちも、憧れているチームの選手たちに教わって、またやる気がアップしているように見えました」

 2019年のワールドカップでラグビー熱が全国へ広がり、福本TDも自宅前の公園で父子が楕円球を手にパス練習をする光景を見ることが増えたと表情を崩す。
「そんな光景がもっと広がっていけばいいな、と。ラグビーで日本の社会がよくなったり、ラグビーが日本の文化の下地になったら嬉しい。普及活動が、その一助になったらいいですね」
 チャンピオンチームは、勝利の先にそんな夢を描いている。

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