フランコ・モスタートのプライド。「フィールド上でもっともハードに」
間を置かず、何度も果敢にパスコースへ駆け込む。防御にぶつかるたびに前へ出る。守ってもたびたび、上腕と足腰の力で走者を捉える。押し返す。
献身できるわけは。本人が答える。
「自分の性格上、家族にとって誇れる選手でありたいと考えているからです。それにラグビーというスポーツが大好きで、痛みを伴うプレーへも100パーセントの力を投じるのが信条だというのもあります」
フランコ・モスタートは身長200センチ、体重112キロの30歳。おもにLOのポジションを務め、南アフリカ代表として39キャップ(テストマッチ=代表戦出場数)を得てきた。
2019年のワールドカップ日本大会の決勝トーナメントでは、ベンチからインパクトを与えた。「ボムスコッド」を形成し、通算3度目の優勝に喜んだ。
「ボムスコッド」とは、当時のラシー・エラスマス ヘッドコーチがリザーブ陣に付けた名称だ。FWの控えが8名中6名と一般的な比率よりも1名多く入っており、同国の売りである力強さを試合終盤まで保った。
持ち前の勤勉さで世界一も経験したモスタートは、2017年度までの2シーズン、リコーにいた。いまはホンダへ加わり、自身にとって約3年ぶりのジャパンラグビートップリーグへ挑む。2月20日、東京・夢の島競技場でスタートを切る。
期待されるのは安定感だ。
昨季までの3年間、ホンダには南アフリカ代表LOのRG・スナイマンが在籍。現在26歳のスナイマンも2019ワールドカップで「ボムスコッド」へ名を連ね、身長206センチ、体重120キロの体躯と速さを活かした。豪快だった。
いわばモスタートは、そのスナイマンの後継者にも映る。本人もホンダ入りの背景に、スナイマンの助言があったと認める。
「彼の存在が(入団の)理由となったのも事実。彼から、ここで同じゴールを目指して頑張る人々の話を聞いてすごく惹かれました」
ただし主将兼FLの小林亮太は、スナイマンと異なるモスタートのよさに期待していた。
「スナイマンはスペシャル。良くも悪くも成功したら素晴らしく、失敗したらピンチに…というところがありました。フランコは、全てのプレーにおいて高いレベルを保っています」
船頭役の見立てには、ダニー・リー ヘッドコーチも同調する。談話からは、モスタートへの信頼がにじむのだった。
「彼ら2人を比較したら全く違うとわかる。どちらもすごくいいプレーヤーで、それぞれ味は違う感じ。スナイマンは狂った、激しい選手。強く、自分の身体を投げ出す。モスタートは、そのスナイマンよりも年齢が少し上で経験がある。スナイマンの特徴はリーダーシップ。(攻防の起点となる)セットピース、ラインアウトでいい影響を与え、チームに貢献する姿勢も見せてくれます。スナイマンという特別な選手がいないのは大きな損失で寂しい気持ちもありますが、モスタートはその大きな穴を埋める存在になりえます」
リーの言う通り、LOは空中戦のラインアウト、FWが固まって押すモールで中心となる。幾多の見えざるファインプレーで信頼を勝ち取りそうなモスタートは、世界で活躍するLOの共通項をこう述べるのだった。
「ラインアウトのコール(作戦立案)については得意、不得意の差が出るでしょうが、激しさという点は皆に共通している。フィールド上でもっともハードにプレーするのがLOです」
今季の新外国人勢にあって、話題をさらうのは花形とされる面々だ。
サントリーに入ったニュージーランド代表SOのボーデン・バレットは、すでに練習試合で美技を連発。ホンダが初戦でぶつかるNTTコムでも、元スコットランド代表主将でSHのグレイグ・レイドローが堅調に球をさばきそうだ。それぞれ東京、千葉を本拠地とし、開幕前から注目される。
かたや世界最高クラスの黒子役は、三重の鈴鹿サーキット付近のグラウンドで静かに牙を研ぐ。
「静かで安全な場所。家族にとってもいいでしょう」
所属先という名の「家族」の期待に応えるべく、本番でオールアウトする。