天理大学特集！　10年前からぶれない小松節夫監督の指導スタイル（４）

　天理大は1月11日、大学選手権で早大を倒した。2011年、2018年と2度決勝で涙を飲んで迎えた2020年シーズン。監督就任26年目の小松節夫監督は、ついに日本一にたどり着いた。ここでは、初めて決勝に進んだ2011年のリーグ戦を前におこなったインタビューを振り返る。最終回では、第3回に引き続き、10年経ってもぶれることのない小松監督の指導スタイルが分かる。（4回連載・最終回）

◆第1回（指導者を目指すきっかけとなったフランス留学）
◆第2回（同志社大、日新製鋼を経て天理大のコーチ、監督になる）
◆第3回（築き上げた指導スタイル）

ラグビークリニックVol.26掲載（2011年7月6日インタビュー）
文◎村上晃一

小松節夫［天理大学監督］
Coaching My Way

――監督として心がけているのは。

「選手を干さないこと。プレーは上手いけど態度に問題があるから試合に出さないとか、よく聞きますよね。僕は、それはしません。練習を真面目にしないから出さないのではなく、練習をしないと、している選手に比べて、こういう差があるという言い方です。出さない理由は必ずあるから、選手には、理由が知りたかったら聞きに来るように言っています。そのとき、『お前、練習せえへんからや』とは絶対に言わない。技術的にこういう問題があるから、出せないと言う。具体的な答えを全選手に対して持っています」

――何度言っても理解してくれない選手もいると思います。そこは粘り強く話すのですか。

「僕は、しつこくない。辞めたいなら、辞めていい。本当にやる気のある選手には、とことん教えます。やる気がない選手を追いかけて、なんとかする、ということはしない。ただ、言葉や態度だけでなく、本音がどこにあるのかは、よく見ているつもりです」

――試合中にチームの決め事に従わない選手には、どう接するのですか。

「すべてのプレーに理由がほしい。間違っていてもいいからなぜ、そうしたのかを答えてもらいたい。ディフェンスのシステムがあったとして、システムを守らなかったから叱るということはしません。その決め事を破っても止めることができたら、『ナイスプレー！』と誉めます。自ら判断したことが成功したわけですから」

――ラグビーは気持ちの部分も大事だと思います。そういった指導はするのですか。

「監督に就任した19年前、チームには、試合前のジャージー渡しの儀式も何もなかったんです。試合ジャージーは着た選手が持って帰って、次の試合に持ってくる。同志社なら、試合前日にジャージーを渡され、それを枕元に置いて、スパイクのひもを新しくして、眠る。それが当たり前だと思っていた。そういえば、僕が大学の頃、天理の選手のスパイクが汚いので、磨かないの？って聞いたら、『そんなもん、芝生で試合してみい、終わったらピカピカじゃ』って（笑）。それが天理の大らかさかもしれないけど、少しずつ直していきました。今はジャージーもきちんと渡すし、試合前に部歌もうたいます」

――夏合宿で、中央、早稲田、明治と練習試合を組むようですね。

「うちとしては、早稲田や明治のような有名校との試合経験がないので、ぜひやりたかった。昨年は、早稲田はBチームだったので、今年はAチームでとお願いしたら受けてくださった。明治も受けてくれた。中央ともできるので、関東の力を感じたい。あとは、慶應ともやりたかったなぁ。これは単純に、早慶明と揃えたかっただけなんですけど」

――今年は関東の壁を破るチャンスではないですか。

「まだ勝っていませんからね。そんなに簡単ではないと思いますよ」

――コーチとしてのゴールラインはどこに設定していますか。

「天理大学の最高成績は大学選手権ベスト4 です（1984年度）。だから、監督に就任したとき、『元に戻したい』と思った。大学のOB でもない僕が再建を託された。元に戻すのが役目だと思っています。過去を超えるためには、決勝に進出しなくてはいけない。そして、僕個人のことで言えば、同志社大学のとき決勝で早稲田に負けたので(1987年度）、それを超えたい。ゴールは日本一でしょうね」（おわり）

PROFILE
こまつ・せつお
■1963年3 月3 日生まれ。現役時代はCTB、176㌢74㌔ 。
天理高→同志社大→日新製鋼。80年度高校日本代表。
同期には平尾誠二氏（神戸製鋼GM) 、高崎利明(U20日本代表監督）らがいた。高校卒業後、パリのラシンクラブに2年間留学。帰国後同志社大に入学し、
その後、日新製鋼に入社。93年度より天理大学コーチ、95年度より監督を務める。