コラム 2021.01.05

【ラグリパWest】円熟の笛 真継丈友紀 [日本協会A級レフリー・トップリーグパネル]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】円熟の笛 真継丈友紀 [日本協会A級レフリー・トップリーグパネル]
日本ラグビー協会が最高とするA級を持つ真継丈友紀レフリー。1月16日から開幕するトップリーグで笛を吹けるパネルの一員


 スクラムの組み直しは実に7回。レフリーはポイントを変えるのみ。反則を取らない。
 大学トップの試合だった。ボールが出たのは5分後。規定のハーフ40分の8分の1が余計なことで空費される。

 その時、真継丈友紀(まつぐ・ともゆき)の細身のシルエットが脳裏に浮かぶ。
 うまいレフリーだなあ、と思った。

 2019年12月21日、真継は大阪・花園にいた。56回目の大学選手権の8強戦。試合は早大が日大を57−14と大差で降す。

 公式記録の大きな反則(PK)は前半、4ずつの計8。取材ノートにはスクラムに関するものは半数以上の5と残っている。

 前半8分、真継はこの日2回目のスクラムで日大が劣勢から崩すコラプシングをとる。
 しかし、19分には14−0とリードしていた早大に同じ反則を示す。
 22分に日大、25分と32分には早大。赤黒は左PRの斜め組み、いわゆるアングルとコラプシングを連続して取られた。

 スクラムは両チーム計16人が参加するためラグビーで一番判定が難しい。早大も日大も自信を持っていた。真継は目を凝らす。
「1回1回、組んでみないと分かりません」
 先入観や得点差を交えない。逡巡もない。この試合、早くつっかけるアーリー・エンゲージなどの中程度の反則(FK)は0。あいまいさもない。
 そのレフリングは鮮やかだった。

 真継は38歳。1982年(昭和57)8月10日生まれだ。日本ラグビー協会が最高と認定するA級レフリーのひとりである。

 選手としての現役時代はバックスだったため、スクラムは勉強した。
「シンさんと1対1を組んでもらいました」
 長谷川慎。昔は番長、今ドクター。2019年のワールドカップで日本代表の初8強にスクラムで貢献する。現在はヤマハ発動機のハイパフォーマンスコーチである。

 長谷川からメカニックを教えられた。
 ヒジを絞って、下げたら落ちるんですよ。
「シンさん以外のトップリーグのスクラムコーチともしゃべり込みました」
 リコーの岡崎匡秀、NTTコミュニケーションズの斉藤展士らの名前が挙がる。

 真継はスクラムにおいての指針を持つ。
「丁寧にやらないといけません。その上で、テクニックではなく、力と力の押し合いで、優劣を判定してあげないといけません」

 そのレフリングの信条は「共感」。
「誰が見ても、仕方ないね、それはダメやね、というのを反則としてとります。その上で、両チームの持っているものをできるだけ引き出そうとしています」

 真継は小3から南京都ラグビースクールで競技を始める。洛北から同志社大に進み、3年時にレフリー専門になる。
「僕の力ではレギュラーになれない。首を痛めたこともあり、チーム貢献を考えました」

 チームは4年時、41回大学選手権(2004年度)で4強進出。優勝する早大に17-45で敗れた。同期には日本代表になるCTBコンビ、仙波智裕(東芝、キャップ9)と平浩二(サントリー、同32)がいた。

 大学で科目履修生として1年残る間、佛教大で小学校の教員免許を取る。
「子供を教えるのを面白いと感じましたし、レフリーを続けられる利点もありました」
 市立の錦林を皮切りに、私立の立命館まで京都の5校で、計13年を過ごした。

 ワールドカップの年、家族4人で北海道に移住する。妻は北見の出身だった。
「新しいチャレンジをしたいと思いました」
 36の年だった。現在は札幌市のスポーツ局に籍を置く。小学校へのタグラグビーを中心に、道内唯一のトップレフリーとして楕円球の普及・発展にいそしむ。

「小学校の教員という立場からの出向の形です。協会と連携して、教育とラグビーのすり合わせをしています。タグラグビーの授業を文科省の学習指導要領に沿わすためですね」

 北の大地は雪が降る。フィットネスを持続させるのはもっぱら室内のエアロバイクだ。
「1時間ほど乗ることもあります」
 筋力を落とさないため、ウオーターバックも持ち上げる。

 12月29、30日の2日間、大阪市内で合宿があった。真継を含めA級レフリーの中でも、トップリーグを担当できる「パネル」と呼ばれる19人が参加。年明けの1月16日に開幕するリーグ戦のための直前研修だった。

 トップリーグを裁いたのは34試合。中堅クラスに当たる。
 A1級に上がったのは2010年。現在はA級で統一されているが、当時はA級の下に属した。10月2日、初めてリーグ戦を担当。秩父宮でのサントリー×豊田自動織機だった。

 試合はサントリーが92−8。勝者のGM兼ヘッドコーチだったエディー・ジョーンズは試合後の記者会見で話した。
「今日は若いレフリーだったが、出さなければいけない場面で、的確にカードを出した」
 示したのはイエローが4枚。向けたのはすべて敗者の豊田自動織機。点差が開いても、だれることなく反則をとり続けた真継に、現イングランド代表監督は賛辞を送った。

「でも、今思えば、もう少しカードを減らせたのでは、と思います。試合を整理して、反則させないことも大切な仕事です」

 厳密に取り締まるのではなく、その上にあるゲームコントロールを思う。
 今の真継は英語で表現すれば「Mellow」。円熟したパフォーマンスを見せる機会は、すぐそこに迫っている。

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