0-132からの再起。富山第一の森力峻主将、最後の冬に全力出し切り涙。
欲しいものが手に入らない。
0-45と大差をつけられ終盤を迎えた富山第一は、敵陣22メートルエリア右でラインアウトを得る。得点機だ。ベンチ前の控え部員は、それまでチャンスをつかんだ時と同じようにエールを発する。
投入されたボールは、果たして、対する仙台育英へ渡る。攻守逆転。そのまま仙台育英が空いたスペースへパスをつなぎ、途中出場の桑原健太朗のフィニッシュで50-0と点差を広げる。
「負けている場面で(トライを)獲り急いでしまって、自分たちが本来できることが焦ってできかなった…」
泣きながら話すのは森力峻。吉本恵太と共同主将を務めた3年生だ。得点することへの意欲が高すぎるがゆえ、得点するのに必要な作業を誤ったという。富山第一は前半にも再三、敵陣深い位置の接点で反則を取られた。好機を逃していた。
12月27日、大阪・東大阪市花園ラグビー場は第2グラウンド。富山第一はそのまま無得点で敗れる。12回目の出場となった全国高校ラグビー大会は、2季連続の1回戦敗退に終わった。
校内では特進クラスに在籍の背番号6は、声を詰まらせた。
「トライを獲れなかったことが、一番、悔しいです…」
富山が地元だ。小学2年で友人に誘われ、地元の吉島ラグビースポーツ少年団に入った。「最初はへたくそやったんですけど、やっていくうちにうまくなって、いいプレーができたら嬉しくて…」。できなかったことができるようになる喜びを知った。
富山県選抜を経て富山第一高に入った。実力者の県外流出も少なくないなか、こう決断したのだ。
「富山県は強くはないですが、全国大会に出て自分たちのプレーを出せる。富山県の意地を見せたいと思い、県内に残りました」
直面したのは苦い現実だった。2年時の全国大会1回戦は、第1グラウンドで島根の石見智翠館に0-132と大敗する。
当時7番をつけた森は「途中で気持ちが切れてしまうところがあった」のを覚えている。
チームは森の入学前にあたる2017年度にも、第3グラウンドでの初戦で兵庫の報徳学園に0-105で屈している。昨年度に大勝した石見智翠館の関係者には、彼我の激しさの違いから「危ないという感じがあった」と故障を心配された。
意識を変えた。爪痕を残す前提として、防御ラインの整備と鋭いタックルを強化。先頭に立った1人が森だった。
河合謙徳監督は新チーム発足時、主将を決めかねていた。FBの吉本とFLの森を共同主将にしたのは、全体練習のしづらかった4月のことだ。
「今季はチームで過ごす時間が短い。1人で引っ張っていくのは難しいだろう…と。この2人はどちらも身体を張りますし、1人はクレバーで1人は熱い。一緒になれば、推進力を生めると思いました」
聡明さで鳴らす森は、プレーで引っ張る吉本と助け合った。6月から最後の全国大会では吉本がけがで出られなかったが、森は屈辱を晴らすつもりだった。
いざ試合が始まれば、音の鳴るタックルで相手のミスを誘う。控え組の「いける! いける!」「決め切れ!」の絶叫を呼ぶ。
0-17のスコアで迎えた後半開始早々には、森が自陣22メートル線付近左でジャッカル。仙台育英の反則を誘う。
その後は続かず、さらなる追加点も許した。それでも芝に立つ青の富山第一は「チームの決まり事を最後まで守ろう!」と、集中力を保った。
過去5大会で8強入り以上した回数は、以前ぶつかった石見智翠館や報徳学園が2だったのに対し今回の仙台育英は0だ。そのため河合監督は「相手が違うので一概には言えません」との前置きを忘れないが、心で、うなずいた。
「チームが目指したディフェンスの一部分は、できるようになってきた。手応えは感じられた」
悔やまれるは、「獲り切れなかった」ことだ。森の述懐。
「やり切るということはできたんですけど、獲り切れなかったことは残念です…」
富山第一のファーストトライへの思いは、あの「0-132」の瞬間から息づいていたものだったのだ。1年間ずっと欲しいものが手に入らなかった現実を踏まえ、森はこう締めるのだった。
「去年も0点に終わっていた。今年はトライを獲ろう、と思っていて…」
この日最後の笛を聞いた瞬間、「…最後まで! 整列!」と仲間に呼び掛けた。声を詰まらせるのは芝を去ってからだ。
「負けてしまったんですけど、ラグビープレーヤーとして胸を張って終わりたかったので…。最後まで規律を守っていくというのは、いつも意識しているので…」
欲しいものが手に入らなかったとしても毅然としていた。ラグビーの主将だ。
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