コラム 2020.12.11
【コラム】未知の調和、楕円のしらべ。

【コラム】未知の調和、楕円のしらべ。

[ 谷口 誠 ]

 ファンが協同組合型の組織をつくってクラブ運営に参画する仕組みもある。サポーターズトラストと呼ばれる団体だ。ラグビーではウェールズ2部リーグ所属のニューポートなどが採用する。年間10英ポンド(約1400円)を納めた人は会員としてトラストの意思決定に参画。集まったお金は、代表選手も輩出する老舗クラブの株の購入に充てる。昨年、英国では協同組合の形態を採るスポーツクラブとサポーターズトラストを併せて約42万人の会員が存在し、5000万英ポンド(約70億円)のお金が集まったという。

 どんなチームを目指すのか。スタジアムをもっと快適なものにするにはどうしたらいいか。地域のためにどんな活動をしていくべきか…。ファンが自分たちの声を直接届けられれば、クラブとのつながりもおのずと深くなっていくだろう。

 協同組合の形を採らなくとも、ファンの参加を促し、民主的な運営を目指すケースは他にもある。サッカーの名門、スペインのバルセロナは資金を出したファンがクラブの会長選などに投票できる。日本でもサッカーの本田圭佑が月会費を納めた人の合議でクラブを運営する「Edo All United」を立ち上げた。

 日本では1年後、トップリーグに代わる新リーグが設立される。当初はほぼ全チームが企業の運動部という形態を変えない見通しだ。しかし、親会社の業績悪化に伴う休廃部を避けたり、今後の発展性を高めたりするためには、このままでいいのかどうか。「いずれかの段階では各クラブが独立した法人になっていく必要があるだろう」と話す日本ラグビー協会の幹部もいる。

 その時、各チームはどのような体制を選ぶのか。プロ野球やJリーグ、Bリーグに倣い、通常の株式会社とするのか。それとも、ファンや地域の人とよりハーモニーを奏でられる形を模索するのか。折しも、環境破壊や社会格差などの問題から、既存の資本主義の限界が指摘される時代にもなっている。日本のラグビーが尊重してきたOne for All, All for Oneに合致する、新たなクラブ運営のあり方がつくれれば――。他競技と違う魅力になり得るだけでなく、世の中にも新しいメロディーを響かせられるかもしれない。

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