早明戦で先発。明大の新人・廣瀬雄也が抱く緊張感と自信。
2020年12月6日のラグビー早明戦。明大の12番は1年生がつける。
廣瀬雄也。昨季は東福岡高で主将を務めた身長179センチ、体重90キロのインサイドCTBは、11月22日の帝京大戦で公式戦初先発を果たした。持ち味を発揮して勝利をつかみ、早大とのクラシコでも引き続きスターターを任された。
加盟する関東大学対抗戦Aの優勝を争う一戦では、名手で鳴らす長田智希ら早大CTB陣との対決をにらむ。何より来年1月までの大学選手権も見据え、自分との戦いにも挑む。
「いつ落とされてもおかしくないと理解しつつ、優勝メンバーになりたい」
前日の朝。本拠地である東京・明大八幡山グラウンドの脇には報道関係者が並ぶ。
地上波でも中継される注目の一戦に向け、チームは4日まで約1週間のトレーニングを非公開としていた。メディアが早明戦前の明大の練習を見られたのは、この日の冒頭5分に限られていたのだ。
「僕は気にしていないんですが、コーチがそうしたいと。自分たちにフォーカスを当てるという意味でも、この形にしました」
田中澄憲監督はこう述べ、ベールに包まれた準備状況への手応えを語る。
「逆に言うと、Bのメンバーがプレッシャーをかけてくれました。仮想早大のいいアタックをしてくれた。(試合に出る主力チームには)完璧にアタックで来た! 止めた! というものはなかったですが、それくらいがいいんじゃないですかね」
練習で控え組の圧力に手こずった分、本番でベストパフォーマンスが出せるのではと読む指揮官。選手選考ではバランスを考慮したようだ。先発、リザーブを含めた23名のバランス、上級生、下級生とのバランスである。
ボールを動かすBK陣では帝京大戦に引き続き、もともとインサイドCTBだった4年の森勇登を司令塔のSOに配置。空いた位置へ廣瀬が入るのも、控えに2年生SOの齊藤誉哉、4年生CTBの齊藤大朗が名を連ねるのも帝京大戦時と同じだ。
ゲームを動かすSOの人選、さらにCTBに新人の廣瀬を抜擢した背景について、こう続けるのだった。
「10番(SO)は大事なポジション。経験も大事です。森は1年時からポジションは違えどメンバー入りしていて、信頼できる。(廣瀬の起用は)若い選手で、池戸(将太郎=1年生SO)なのか、齊藤なのか、廣瀬なのかというところ(を考慮した結果)。15人で戦うわけじゃない。23人トータルで見て、どんな組み合わせがいいか、誰が後半出てきたほうがいいかを考えてああいう(今回の)組み合わせになりました」
激しい競争のさなか、スターターを任される廣瀬は「スタメンは獲りましたが、代わりはいっぱいいます」と気を引き締める。
春はクラブの一時解散指令を受け帰郷も、活動が再開されて間もない夏頃から主力組の練習に混ざった。ロングキックと運動量、スペース感覚を長所とし、かねて初年度からの活躍が期待されていた。
それでも10月4日の対抗戦初戦(対 立大 〇73-15/八幡山)では、ベンチ入りも果たせなかった。
捲土重来を期すべく、課題だった1対1のタックルの技術を居残り練習で確認。田中監督に付き添ってもらった。11日の青学大戦(〇82-10/八幡山)でデビューを飾ると、徐々に存在感を示してゆく。
18日の筑波大戦(〇33-17/埼玉・熊谷ラグビー場)ではベンチを温めたままに終わったが、「何がだめだったか、自分を見つめ直し、問い、コーチ陣とコミュニケーションを取ってきた」。積み重ねを止めなかったことで、慶大に敗れて迎えた帝京大戦でスタメンに抜擢されたのだ。
当日は前半16分、敵陣深い位置でロングパスを相手CTBの尾崎泰雅にインターセプトされた。間もなく0-13とされたが、「判断は間違っていなくて、狙っているところは全然いい」。下は向かなかった。
改めて強調するのは、この日の自軍の充実ぶりだった。
「いつもの自分なら、下に、下にと(気持ちが)落ちていくところでしたが、なぜかあの時はチームの雰囲気も良く、ミスをしても後腐れがなく、前向きな気持ちを先輩たちが作ってくれた。試合前にも、最悪のシナリオになってもノーパニック、慌てずにやろうと話していた」
一時は7-23と差をつけられたが、明大は、何より廣瀬自身は時間を追うごとに息を吹き返す。
33分、敵陣ゴール前左ラインアウトからモールでトライを決めた。12-23。そのチャンスを得たきっかけは廣瀬のキックチェイスとタックル、ジャッカルだった。
続く39分には自らのトライなどで19-23とさらに差を詰め、後半も持ち前のランとパスの技能で再三、チャンスメイク。最後は39-23で白星を挙げた。
「自分で言うのもあれですけど、デビュー戦(初先発)にしては――ミスもありつつ――いい感じでした」
今度は早明戦。廣瀬は「早大戦ではディフェンスが大事になる。期待に応えたい。12、13(両CTB)のランナーを個人で止め切らないとチームの足を引っ張る」。防御での献身を誓う。
田中監督は以前から「今季は試合で成長していく」と、実戦で課題を抽出する重要性を訴えていた。ルーキーもまた、重要な一戦からさらなる成長のきっかけをつかむ。