コラム 2020.12.04

【ラグリパWest】ボーン・イン豪州。メイド・イン日本。マイケル・ストーバーク[近鉄ライナーズLO]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】ボーン・イン豪州。メイド・イン日本。マイケル・ストーバーク[近鉄ライナーズLO]
昨季最終戦、対栗田工業でのマイケル・ストーバーク。(撮影/髙塩隆)


 みんな見上げる。
 204センチ。

 マイケル・ストーバークである。
 オーストラリア出身。愛称「マイキー」はこの春、ブレイクした。
 籍を置く近鉄ライナーズではない。最終シーズンになるサンウルブズだった。

 初合流。その状況でスーパーラグビーの全6試合に右LOで先発した。トライも2つ。リーグを統括するSANZAARによるベスト・フィフティーンにも選ばれた。

「よく走ります。いい選手です」
 監督の大久保直弥も高評価をつけた。7試合目以降はコロナによって打ち切り。その中で、マイキーは存在感を放った。

「スーパーラグビーを戦ったのが不思議でした。クーパーとも同じ近鉄にいます」
 活躍はしたが、自分はシンデレラ・ボーイ。28歳のマイキーはそれがわかっている。

 10年ほど前、クウェイド・クーパーはプロのラグビー選手。マイキーは芝生の手入れなどをするグラウンドキーパーだった。チームはスーパーラグビーのレッズである。

「バリモアのグラウンドで働いていました」
 3学年上のクーパーが、レッズや国代表・ワラビーズのSOとして勇躍するのを別世界から眺めていた。最終的にクーパーは代表キャップを70に積み上げる。

「クーパーらにはラグビーへの向き合い方を学び、貪欲に上手くなろうとするところを見せてもらえました」

 レッズの育成機関であるアカデミーにいたこともあった。しかし、その長身をもってしてもプロへの道は険しかった。
 アマとして地元クラブであるイースツで競技を続けざるを得なかった。

 バリスタをやった時期もある。カフェでコーヒーを淹れた。
「今でもコーヒーは好きですよ。1日に3、4杯くらいは飲みます。」
 マイキーの地元・サンシャインコーストにはコーヒー文化が育っている。珊瑚海に沿った地域はその美しさで世界的に有名だ。

 4年ほどは本意でない仕事をやった。高校にあたるアングリカンチャーチ・グラマー・スクールを卒業してからである。

 転機になったのは2014年。ニュージーランド(NZ)から、オファーが来る。国内選手権(NPC)を戦う州代表のノースランドだった。北島にあるチームで2季を過ごす。

 2016年、長身選手を探していた近鉄が目をつける。4月に来日した。
「期待値を込みで獲得しました」
 チーム関係者は語る。

「近鉄は私にチャンスをくれました。日本でラグビーに専念できるようになりました」
 この言葉は、隣国ではラグビーだけでは食えなかったことを意味している。

 念願のプロに極東の島国でなれた。トレーニングは望むところだった。
「日本のラグビーは、走る印象を受けました。だから私もそれに合わせるようにしました」
 来日時より体を10キロ近くしぼる。現状は116キロ。走力は自然と上がる。

 近鉄にはお手本もいた。10学年上になる「トモ」ことトンプソン ルークである。同じポジションで日本代表キャップ71を得る。身長はマイキーの方が8センチ高い。

「一緒にラグビーができて幸せでした。LOはタフでないといけない、ということや一生懸命に取り組む姿勢を学びました」

 トモは現役引退をして、今年2月、NZに帰った。マイキーの急成長はトモのあとを継ぐ責任感の表れであり、スーパーラグビーの選手となったことで、自分を評価しきれなかった母国への意地が生んだともいえる。

 ただ、マイキーはトモと同じ日本代表になれる資格はまだない。チーム関係者は話す。
「レジディエンス(滞在記録)を調べたら、2か月以上、日本にいない時期がありました」
 代表になるためには、離れる期間の長さも厳格に見られる。必要滞在期間が3年滞在が5年に延長されることもあり、桜のジャージーを着ることができるようになるタイミングは不透明だ。

 そうなれば、できることは、自分を育ててくれた近鉄の強化に資することである。年が明ければ、在籍6年目になる。
「私を拾い上げて、成長させてくれたチームをリーグ戦でトップにします」

 2部にあたるトップチャレンジの開幕は1月17日。ホームの大阪・花園ラグビー場で清水建設と戦う。試合開始は13時だ。
 今年のリーグ戦は、地域リーグに降格した中国電力を含めた9チームで争われる(当初、『地域リーグに降格したマツダ』と記していましたが、中国電力の誤りでした)。上位4チームはトップリーグへの挑戦権を獲得。セカンドステージでは、4チーム構成のプールに、トップチャレンジが1つずつ入る。

 近鉄は選手1人にコロナの陽性反応が出て、11月29日より活動を自粛している。12月7日の週より活動再開の予定。その時、マイキーはチームの先頭に立ちたい。

「走力、高さ、それに、スクラムなどを押せることが自分の強みだと思います。試合ではその部分を前面に出していくつもりです」

 近鉄の最終目標はトップリーグ復帰。新リーグも含めて、入替戦実施のアナウンスはまだない。ただ、どのような形になろうとも、マイキーは紺エンジのジャージーのため、最善を尽くしていく。

PICK UP