国内 2020.11.26

屈辱が原点。早大ルーキー、FL村田陣悟

[ 編集部 ]
屈辱が原点。早大ルーキー、FL村田陣悟
目標とするプレーヤーは「日本代表の姫野さんです」。試合前には映像を見て、気持ちを高める。(撮影/松本かおり)


 秋はどんどん深まっていく。
 関東大学対抗戦Aは、各校とも残すは1試合のみ。12月6日におこなわれる早明戦で優勝が決まる。
 全国大学選手権も地方代表校同士の戦いから始まっている。1月11日には頂点に立つチームが決まる。

 2年連続の大学日本一を目指す早大は、11月23日におこなわれた早慶戦にも快勝して今季6戦全勝。早明戦で勝ち、関東大学対抗戦での優勝も手にしたいところだ。
 試合を重ねるごとにプレーの精度が高まっている。突出して目立つプレーヤーがいないところに充実が感じられる。

 確かな足取りを見せるチームを支えているひとりが、FLの村田陣悟(じんご)だ。
 1年生ながら今季全試合に出場している。初戦の青学大戦こそ途中出場も、立大戦からはすべて7番で先発。185センチ、98キロの体躯を活かし、特にアタックで目立つ。前進し、好機を作り出す。

 コロナ禍により、各チームとも春、夏と対外試合を組むことができなかった。大学ラグビーのレベルを体感し、存在をアピールしたかったルーキーたちにとっては、特に難しい状況だった。
 しかし村田は、そんな中で力を伸ばし、堂々とレギュラーの座をつかんでいる。

 躍進の原点は屈辱だ。
 本人は「高校日本代表に選ばれなかったのが悔しくて」と回想する。
「(出身校の)京都成章高校から5人が候補入りしたのですが、最終的に僕だけ選ばれませんでした。同じポジションの三木(皓正/現・京産大)、延原(秀飛/現・帝京大)は受かったのに」
 いてもたってもいられなかった。コロナによる自粛期間中も自分なりにトレーニングで追い込んだ。その期間の成長がいまにつながっていると自己分析する。

 ガムシャラに鍛え込んだわけではない。なぜ落選したのか。自身に矢印を向けた。
「高校日本代表はディフェンスにフォーカスしたチームです。セレクションの時、そこをアピールできませんでした」
 京都成章はディフェンスに強みがあるチームだ。それなのに防御力を評価されなかったから、湯浅泰正監督から教わったことをあらためて思い出した。

 早大もディフェンスから戦う集団だ。自身の攻撃力はそのまま、チームの流儀にフィットすることを考えた。
「勝ちポジ(相手に先んじて構え、動き、前に出る)を意識し、横とコミュニケーションを取りながら前へ出るディフェンスができるようにしました」
 高校時代より食事とS&Cにこだわり、体重は増え、体脂肪は落ちた。最初は戸惑った早稲田のハイテンポにもついていけるようになった。

 もともとアタックセンスは高い。コンタクトシチュエーションにも強いから、ハンドオフのスキルや高めたアジリティーを使い、前へ出る。
 帝京大戦でのタックル回数はチーム上位に入るなど運動量も増えているが、本人は「まだまだ」と言う。
「もっといける。まだ、出し切れていないと思っています。こんなもんじゃないとアピールしていきたい。試合が終わった時に動けなくなるまで走って、早稲田の7番は村田陣悟と言われるぐらいになれたら」

 京都・亀岡中でラグビーを始めるまでは、野球をプレーしていた。体の大きさを見込まれて楕円球の世界に誘われた男は、「強みのボールキャリーをもっと見せ、誰よりハードワークする」と誓う。
 これから始まる負けたら終わりの日々を睨んで「緊張します」と言うけれど、「楽しんでプレーするマインドは忘れないようにしたい」と前向きに話す。

 珍しい名前は、「出陣の時のような空気の中でも、悟りを開いたような、静かな境地でいられるように」との思いが込められている。
 これからの季節、それが大事だ。

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