国内 2020.10.30

コロナ禍の新人勧誘も賢く。2季連続都4強目指した狛江高の「オーディション」結果。

[ 向 風見也 ]
コロナ禍の新人勧誘も賢く。2季連続都4強目指した狛江高の「オーディション」結果。
第100回全国高校ラグビー大会 東京都第一地区予選でベスト8だった都立狛江高校(撮影:向 風見也)


 昨季、公立校ながら東京都大会で4強入りの狛江高ラグビー部は毎年、主将選びの「オーディション」を開く。

 その年の最上級生が引退するや、全2年生が1日ずつ交替で練習の音頭を取って討議するのだ。

 候補者が一本化されているシーズンもこの儀式を実施。練習中、掛け声をあげても反応されない経験を積ませることで、人を束ねる難しさ、リーダーを支える必要性を学んでもらう狙いもありそうだ。就任7年目の坂本竜太監督は、前任の三鷹高時代からこのシステムを採用している。

 2020年度の船頭役は福田太一。幼少期から八王子ラグビースクールに通っていたオープンサイドFLで、初心者も多いチームにあっては貴重な経験者だ。

 坂本監督によれば福田は、恒例の「オーディション」を前に主将就任後の計画などを文書化して発表。具体的な行動で熱意を示していた。

 10月25日、東京・江戸川臨海球技場。全国高校大会・東京都第一地区予選の準々決勝に挑む。5-5の同点で迎えた後半途中、背番号7の福田はその場にうずくまる。

 起き上がり、屈伸運動の後にプレーに参加も、まもなく勝ち越されて後半12分に交代。
 以後、向こうのランナーに走られたり、もともと劣勢を強いられていたスクラムで苦しんだりし、一時は5-24と差を広げられた。

 最後は流行のポッドシステムを得点化する意識で17-31と迫ったが、かねて掲げた「4強以上」という目標には届かなかった。

 涙を笑いでかき消そうとする部員たちの輪のなかで、船頭役は「いい流れの中、けがをしてしまって…」と唇を噛んだ。

「(負傷後しばらく戦ったのは)身体を動かしていれば温まってなんとかなると思ったから。もちろん、僕も最後まで出たかったですし。途中で代わったのは、味方が僕に気を遣って思うようなプレーができなくなって、それが苦しかったからです。ラック際の(防御の)指示は自分が出していたのですが、自分のポジションが急に空いたことで…。いつも通りのディフェンスができなくなった」

 ラグビーワールドカップ日本大会があった2019年秋、狛江はクラブ史上初めて都大会4強入り。同大会で準決勝に進んだふたつの公立高のうちのひとつだった。

 複数の私学で活用されるスポーツ推薦がなく、受験情報サイトなどで知られる入学偏差値は「60」と決して低くないなか、今季も16名の新入部員を集めた。分散登校が始まった6月以降、2年生を中心に計画的に初心者を誘ったのだ。

 福田の述懐。

「ラグビー部特有の、引っ張って勧誘というのはなかなかできなかったのですが、ギリギリを突きました。(ルール上)中休みに(1年生の教室へ)行っちゃだめなら、5分休みに…と、怒られない範囲でラグビー部の活動を伝えられるような動きをしました。あと、ワールドカップのおかげで自らやりたいと言ってくれる初心者がいたのも大きかったです」

 さかのぼって5月いっぱいまでは、本格的な活動はおろか登校も叶わない時期が続いた。それでも週に一度のペースでオンラインの筋力トレーニングを実施。高校からラグビーを始めたNO8の竹田星哉はこうだ。

「(外出できないため)ストレスはありましたけど、ラグビー部の仲間と電話で話す時間があった。勉強やトレーニングで疲れがたまったら休憩して、世間話を…と。あの時間があったからこそ起きたコミュニケーションもありました」
 
 一丸となった証か。マネージャーを含め計18名いる2020年度の最上級生は、秋の大会まで1人も部活を引退しなかった。

 4強入りした前年度も一時的に受験勉強に専念した部員がいたとあって、坂本監督は「(3年生が)3年間、誰も辞めなかったのは僕が来てから初めてです。仲良く、皆で最後まで戦えた」。福田主将はこうだ。

「今年は春の大会もセブンズ(夏の7人制大会)もなかった。もしかしたら、(大会があれば)そこで辞めようと思っていた3年生は何人かいるかもしれません。でも、『それら(各種大会)がなくなってしまったなら、秋まで突き抜けよう』という意志が生まれたんです」

 なおこのシーズンは、20歳以下日本代表監督の水間良武氏から戦術面、心構えの領域で助言を受けていた。スマートフォンなどのアプリを通じて部活動を支援するプラットフォーム「BUKATOOL(ブカツール)」を介し、知り合っていた。

 そして8月下旬から複数の練習試合を組み、活動再開後唯一の公式大会となる全国予選に挑んでいたのだ。

 2020年度の「オーディション」を通過した福田主将は、「狛江が保善に負けたというより、自分の(途中退場という)ミスで負けたのが悔しかった」。裏を返せば、仲間たちの健闘に敬意を表したうえで、かつ仲間たちとの積み重ねに一定の手応えをつかんだうえで、私大入試へ気持ちを切り替えた。

 かたや残った2年生は、2021年度の「オーディション」への扉を開く。

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