国内 2020.10.29

頂点へ。2023年へ。ヤマハ主将、大戸裕矢の決意。

[ 編集部 ]
頂点へ。2023年へ。ヤマハ主将、大戸裕矢の決意。
ボクシングトレーニングに取り組む大戸裕矢主将。(撮影/松本かおり)


 初めてキャプテンを務めた2019年度シーズン(トップリーグ2020)は消化不良だった。
 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、6試合戦っただけで打ち切られたリーグ戦。ヤマハ発動機ジュビロは開幕戦でトヨタ自動車を倒して迎えた第2節の神戸製鋼戦に競り負けただけで、5勝1敗と快調だった。

「(コロナ禍による打ち切りは)しょうがない。でも悔しい」
 完勝、大勝を続ける中で突然のシーズン終了を迎えたから、大戸裕矢(おおど・ゆうや)主将の気持ちは複雑だった。
 はやく、その無念さを晴らしたい。スキッパー2年目のいま、開幕まであと2か月半。チームの先頭でリーダーシップを発揮している。

 入団9年目。30歳になった。
 ただ、自分の中にベテランの意識はない。「山村(亮)さんや矢冨(勇毅)さん、五郎丸(歩)さんなど、上の人たちがバリバリやっているチームですから」と笑う。
 体で引っ張るタイプ。自身のことをそう認識するも、立場がそれを変えていく。「まずプレー。それは大前提ですが、言葉も少しずつ付随するようになってきました」と穏やかに話す。

 きっかけは、チームをサポートする倉重知也さんとの出会いだ。
 メンタルやチームビルディングなどについてアドバイスをしてくれる人と出会い、ラグビーのプレー面でリーダーシップを発揮するとともに、チームが掲げるビジョンに対しても周囲を牽引することの重要性を知った。
 グラウンドの上で仲間の先頭に立つ自信は持っていた。オフ・ザ・フィールドでも同様の存在になることにチャレンジした。

 ラグビーでナンバーワンのチームになる。
 それは、あらためて口に出す必要さえない、ジュビロの真ん中を貫いているものだ。だから、チームの背骨をもっと強くするため、それ以外のビジョンも持とうと決めた。
 それをみんなで作ることにした。

 地域の人々に愛されるチームに。
 みんながハッピーになれるように。
 勝利を追求する集団となる以外にそんなビジョンを掲げた。
「それを明確にしたら、全員が何をしていけばいいのか、どう動くべきなのか。そこも明確になった」
 結果、「チャンピオンチームになるのにふさわしい行動が自然とできてきているかな、と思います」と言う。
 そこでもリーダーシップを発揮する自分がいる。

 リーダーとして成長する大戸は、30歳にして、ひとりのプレーヤーとしても成長中だ。
 世界的なウイルス感染拡大で予定されていたテストマッチはキャンセルとなり、2020年内の日本代表の活動はなくなった。
 しかし、6節で終わったものの、日本代表首脳陣はトップリーグでのパフォーマンスを評価して約50人ほどの新しい日本代表候補を選んだ。
 その事実は、大戸のもとに、代表レベルに達するためのトレーニングメニューとともに届けられた。「(同スコッドに入り)自信になった」と話す。

 すでに日本代表キャップ4を持っている。サンウルブズでもプレーした。しかし、「正直、(代表定着やワールドカップ出場など)その先は見えなかった」。それが実感だ。
 ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチにも、インターナショナルレベルのLOとしてのパワー不足を指摘された。

 さらに、「代表レベルでは、トモさん(トンプソン ルーク)をはじめ、自分より大きな選手たちがよく走る。それが当たり前でした」と体感を話す。
 以前はそんな差を感じていたが、今回の代表スコッド枠に名前が入ったということは、その差が埋まりつつあるのだろう。進むべき方向性は間違っていないと感じている。

 学生時代(正智深谷→立命館大)は感覚的にプレーする選手だった。以前の自分を、そう振り返る。
 ヤマハに入ってから変わった。
「清宮(克幸)さんが監督になって3年目の入社でした。細部にまでこだわるラグビーでした。やろうとしているものに追いつけるのかな、と思いました」
 深く理解しないと、自分に求められることさえ分からない状態だった。
「だから、当時キャプテンだった三村(勇飛丸)さんと練習や試合のビデオを夜遅くまで見続けました」
 それが奏功した。

「やりたいことが分かれば、自分のポジションの中で最大限の力を出せる自信はありました。LOのポジションは、チーム内の競争相手も、対戦相手も外国人選手が多い。彼らにはないもので力を発揮することが大事でした」
 運動量。細かなスキル。タックル回数。危機管理能力。そこを磨き、信頼を高めていった。

 ヤマハでの成長。代表レベルを見据えての進化。それらを経て、いま、あらためて狙うのは2023年のワールドカップへの出場だ。
 そのとき33歳。日本を背負うセカンドローとして、心身ともに成熟しているつもりだ。

 キャプテンに就いた昨季からプロ選手となったのは、「もっとラグビーの時間を増やしたかった。ラグビーのことを考える時間がもっと必要だった」からだ。
 ラグビーで生きていく。そんな覚悟がある。

 安定したサラリーマン生活を捨てたが不安はない。
「自分は、あとがない方がいいタイプ」と、大学の時の苦い経験からそう話す。
「1年生の時から試合に出ていました。それで保守的になった。まあ、試合に出られるだろうと思って過ごしていたら、4年の時は出られませんでした」
 2023年に向けてひとつのことに集中する。どん欲に上を目指し続けるつもりだ。

 まずは、ヤマハをトップリーグ頂点に導きたい。チャンピオンチームの主将で不動のLO。そうなれば、手にしたいものは必ず近づく。
 2021年1月に始まる新シーズン、開幕線の相手は昨季唯一敗れた神戸製鋼。リーダーは、選手層の厚いその相手を「いいターゲット」と言う。
「前回の対戦時は、十分に戦えると感じながらプレーしていたのですが、細かいミスを重ねて負けてしまいました。あのときの負けを活かす作業を繰り返して、今度は勝ちたい」
 キャプテンの思いは、チーム全員の胸の中にもある。

187センチ、104キロ。日本代表キャップ4。(撮影/松本かおり)

PICK UP