国内 2020.10.04

早大・小西泰聖、齋藤直人前主将の位置で「自分流」のパス。

[ 向 風見也 ]
早大・小西泰聖、齋藤直人前主将の位置で「自分流」のパス。
関東大学対抗戦Aの初戦へ向け最終調整する早大の小西泰聖。右は後藤翔太コーチ(撮影:向 風見也)


 手先に「意識」を伝える。接点から味方へパスをさばいた瞬間、両腕と両手の指をボールの飛ぶ方向へぴんと伸ばす。人によってはおろそかにしがちな基本中の基本と呼ばれる動作を怠らぬよう努める。淡々と投げる。

「意識ですね。はい」

 10月2日、早大・上井草グラウンドでの練習中だ。関東大学対抗戦Aの初戦を2日後に控えるなか、本人は言う。

「パスというひとつの動作にも(地面にある)ボールをつかみにいく動作、(投げる瞬間)身体をひねる動作、それに膝、肘(の角度)…と(多くの注意点が)ある。それを動画に撮って、フィードバックしながら練習してきた。僕のなかでは『ここと、ここと、ここを意識すれば』という教科書のようなものができ上がっています」

 小西泰聖。早大ラグビー部の2年生だ。攻撃の起点となるSHで主力定着を目指す。

「きつくなってきた時こそ、そういうこと(基本)にこだわる。SHにはそれが一番、大事なんじゃないかと、自粛期間中に思えてきて。もちろん(攻めの)テンポも大事なんですが、まずはそこ(基本)への集中力を高める」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、チームは4月から6月にかけて一時解散。小西は渦中、強化選手の過ごす寮で自己分析に注力した。普段から習慣化しているラグビーノートへの記帳、布施努チームパフォーマンスダイレクターや元日本代表SHの後藤翔太コーチとのオンライン面談を通し、目指す選手像を確立する。

「ずっと、自分と話していました。…と、言うと気持ち悪いですけど! …ラグビーノートには練習メニュー、やったこと、教わったこと、気づきをバーッと書いて。(ミーティングでは)僕が仮説を言って、それが合っているのか、合っていないのか(を話す)というセッションをしました。自粛期間中は比べる対象がいないので『誰よりもうまくなる』というのにこだわっても仕方がない。自分が掲げる目標へ向かうためにどういう成長曲線を描くか、その過程でどんな考え方をするか、何をするかを具体的に(作り上げた)」

 その延長線上に、日ごろの凡事徹底があったのだ。

「(試合終盤などに)疲れているなか、相手は何をされたら嫌かと考えたら、そこに、たどり着きました。こっちから常にアクションし続けて、相手を受け身にさせる選手でいたいです。そうすれば、気持ちの上ではすでに勝利している」

 身長167センチ、体重72キロの能弁な戦士は、東京の下町に生まれ育つ。父も楕円球を追いかけていたからと、2歳で葛飾ラグビースクールへ参加。中学からはベイ東京ジュニアラグビークラブで競技を続けた。

 幼少期の記憶について「ラグビーボールで遊んでいるという感じ。あとはてんとう虫を追いかけ回した」と笑い、父親と同じスポーツをすることへの違和感はなかったと続ける。

「あまり押し付けられなかったので。逆に、他のスポーツもやっていました。小2から中3までは陸上を。小学校の頃は短距離、長距離を季節ごとに、中学校の頃は短距離一本です」

 やがて神奈川の全国的強豪、桐蔭学園高ラグビー部ヘと進む。最終学年時は主将だった。在学中にはユースオリンピックの7人制ラグビー日本代表に選ばれたため、早大へはトップアスリート推薦枠で入学できた。

 大学1年目の昨季は、当時の齋藤直人主将、1学年上の河村謙尚と定位置を争った。対抗戦でのベンチ入りはわずか1回。日本一となった大学選手権では参加した全3試合で登録されたが、出場機会は限られた。

 おもにプレータイムを得たのは控え選手主体の大学ジュニア選手権でのことで、「試合時間が多かった分、経験値が上がった」と切り替えるほかない。

「それもいま振り返れば、ですが。当時は悔しかったです」

 特に、学生時代から日本代表候補となった齋藤の壁は厚かった様子。高校の先輩でもある齋藤について聞かれると、こう言葉を選ぶ。

「直人さんからはAD(攻防練習)を通していろいろとアドバイスをいただいていて。『チームがうまくいかない時は、自分たちの通用しているところや練習してきたことだけをぶつける』という、ゲームコントローラーとしてのSHの考え方を教わりました。パス練習も一緒にやっていたので、見て勉強もしました。(プレーの)お手本という意味でも(存在は)大きかったです。(齋藤は)フィットネスが高く、それ以上にラグビー偏差値も高い。それから、責任感が強い。しっかりとチームに徹する。プレーひとつひとつに意志があります」

 今季は、大学日本一となった主将のつけていた背番号9への定着に挑む。ただし、こうも強調する。

「直人さんを目指すと同時に、自分流をしっかりと極める。まずは肩を並べられるように」

 4日、東京・秩父宮ラグビー場での開幕戦へ先発。丁寧さを尊ぶ配球役として、青山学院大と対峙する。

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