慶大の相部開哉主将が下した苦渋の決断とは。
ストイックな青年は、音で違いを示した。
9月13日、慶大ラグビー部の相部開哉主将はチームにとって約9か月ぶりの実戦機会を迎えた。一昨季に大学日本一に輝いた明大との合同練習を相手校の本拠地グラウンドでおこない、再三のロータックルでランナーを仰向けにした。激しい音を鳴らした。
LOの位置に入り、30分×2本のセッションに終盤まで参加。観戦の許されたメディア、社会人クラブの採用担当者をその音で驚かせた。
もっとも26-33と惜敗したとあって、謙虚さを保った。
「まだ身体が慣れきっていない。(出場時間は)60分と短かったのですが、足がつりかけてしまいました。まだ、調整は足りていないかなと。やろうとしていたこと――前に出るディフェンス――ができたことはポジティブではありましたが、明大さんの(幅の)広いアタックにやられた。課題は残ったと思います」
身長183センチ、体重92キロ。慶應高校から内部進学し、「魂のタックル」を代名詞とする古豪でLO、FLを任される。2018年は20歳以下日本代表に選ばれ、持ち前の激しさを攻撃でも活かしている。
主将として採り入れたのは「罰」の制度だった。
昨季は大学選手権を逃していて、「私生活でも、グラウンドでも甘い部分が積み重なってその結果になった」と反省。遅刻などの規律違反を犯した部員へ、罰走を課すようにした。緊張感が欲しかった。
「本当は罰なんかなくても大丈夫なのが強いチームなのですが、自分たちはそのレベルにないと認識できたので……。次第に罰があるから(規律違反を)やらない、ではなく、それ(規律を守ること)が当たり前だからやらないというふうになりました。慶大のいいスタンダードができました。いいチームになってきているなと」
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い練習施設が使えなかったのは、4月からの約2か月間。「身体は動かせないのは仕方ない。頭を動かそう」。国内外の試合をたくさん観て、知恵を蓄えた。
7月からは徐々に平時の活動を取り戻し、「ラグビーを普通にできていたのがありがたかったと感じて、よりひとつひとつの練習に打ち込めるようになった」。ただし、本当の意味でのいつも通りとは異なる日常を送っている。
神奈川・日吉のグラウンドへ近隣エリア以外から通う部員には、自転車の利用か保護者の送迎を求める。公共交通機関の使用は原則、禁止だ。
何より……。
「いまも、(部員の)親御さんは会社に行かれていることがあって少しだけ感染リスクがある。(通いの選手は)いまも寮生とは練習ができていないです。そこは、シビアにやっています」
本当は、すべての仲間と一緒に楕円球を追いかけたい。しかし、安全さを保って日本一を目指すには心を鬼にするしかなかった。「シビア」な決断を下した以上、自分には一層のハードルを課す。
相部は10月4日、筑波大との関東大学対抗戦初戦を迎える(東京・秩父宮ラグビー場)。