神戸製鋼復活のキーマン、ウェイン・スミスの影響力を探る。
神戸製鋼では2018年、元ニュージーランド代表アシスタントコーチのウェイン・スミス総監督が就任。同時に入閣したデーブ・ディロン ヘッドコーチらとともに、グラウンド内外に目を光らせてきた。
頻繁に兵庫県内の工場見学をおこない自軍のバックボーンを確認。グラウンドでは圧力下のパススキルを磨くべく、投げる際の手の位置、身体の向きなどにこだわる。同年、加盟する国内トップリーグで15季ぶりの優勝を果たした。同リーグの2020年シーズンも、6節で不成立となるまで全勝をキープした。
快進撃を引っ張ったのは世界的名手たちだ。
今年までいた元ニュージーランド代表のダン・カーターが司令塔を務め、それぞれニュージーランド代表、日本代表としてワールドカップ日本大会へ出たLOのブロディ・レタリック、CTBのラファエレ ティモシーらがその脇を固める。
その他にもSOからコンバートした日本代表FBの山中亮平、心境著しいNO8のタウムア・ナエアタら個性的な戦士が揃う。豪華な戦力が際立つ。
しかし、福本正幸チームディレクター(TD)は「皆が、うちのラグビーを理解してやれている」。レギュラー、控えを問わず、チームの目指すプレーを実践できるようになったのが妙味だと話す。
その背後にはスミスら首脳陣のぶれない指導があると考え、こんな見立ても明かしたものだ。
「昨季(2020年)のトップリーグは(新型コロナウイルス感染拡大などの影響で)全6節で終わりましたが、それ以降は若手選手や出番のなかった選手にチャンスを与えるつもりだったらしいです。言えることは、ウェインたちの指導を受けて全員がレベルアップしている。おそらく、(控えもレギュラーと)そこまでそん色はないと思います」
目の前のチームの能力向上を支えてきたスミスは、これからのチームの形成にも深く携わる。
関係者によれば、獲得を検討していた大学生選手の試合を担当者とともに観に行きながら途中で退席。当該の選手がトライを奪った後、手にしていたボールをゴールキッカーへ渡さず地面に放置したのがいけなかったようだ。
その件は福本TDも後に人づてに聞いた。スミス総監督の人材採用への思いを、こう代弁した。
「大学生選手の採用についても、人としてどうなのかを見る。何よりその本人が神戸製鋼でやりたいのかどうかも重視します。以前はいろいろな学生に『頼むから来て下さい』と言ってきていたのに対し、『(スミスは)本人が来たくないのなら、もういいだろう』と。おそらく自分の指導に自信があって、『学べるチャンスをふいにするのか?』と言えるんだと思います」
外国人選手の採用にも、軍師の意向は色濃く反映されている。
今年度はニュージーランド代表経験のあるベン・スミス、アーロン・クルーデンが加わる。福本TDは明かす。
「外国人の補強ポイントについてウェインと相談しながら決めていきます。(今回加わる)2人とも人間性に優れ、リーダーとして引っ張っていってくれるだろうと聞いています。ラグビーだけではなく、日ごろの生活も重視します」
仮に選手側からスミス総監督側へのアプローチがあっても、スミス総監督自身が首を縦に振らなければその話は進まないという。合否の基準は、チームに好影響を与える言動ができるかどうかである。
「うちのモットーは、彼ら(外国人選手)が日本人選手へ丁寧に自分たちの経験やスキルを伝えていくこと」
2022年1月発足予定の新リーグでは、加盟クラブに収益を上げる力や地域との連携が求められる。このリーグに企業クラブとして参加しそうな神戸製鋼にあって、福本TDは「もともと地域の見守り活動などをしていることをウェインにも伝えていて、そこには彼らも喜んで協力したいと言ってくれている」。名伯楽と協調関係を築き、新時代を迎える。