セブンズ 2020.09.16

絶望、戸惑い、そして前進。サクラセブンズ候補、立山由香里の歩む道。

絶望、戸惑い、そして前進。サクラセブンズ候補、立山由香里の歩む道。
168センチ、68キロの22歳。



 ケガに泣き、五輪の延期に戸惑った。そしてまた、前を向いている。
 人生は何があるか分からない。だから、いま、この時にできることに精一杯取り組む。女子セブンズ日本代表候補の立山由香里(たてやま・ゆかり)は、そんな気持ちで黙々と努力を積み重ねている。
 見つめる先には2021年の夏に予定されている東京オリンピックの舞台がある。

 9月14日から18日まで、熊谷にて合宿をおこなっているサクラセブンズの候補選手たち。その中のひとり、立山が9月15日、オンラインで取材に応じた。
「コンタクトなど、接触のあるプレーはまだできていません」と話すも、チームの課題を修正するためのアプローチがおこなわれている。
「クリーンブレイクはできても、それがトライにならないという現状があります。それをどうにかしないといけません。そこでもう一度マイボールをキープして、トライまでもっていく練習をしています」

 自身の強みをアタックスペースへの仕掛けと思っている。
「スペースをうまく活かして、仲間にトライをさせるプレーが得意だし、そんなプレーをしたい」
 タックルも強い。
 その一方で接点での強さは、まだ物足りないと自覚している。競争を勝ち抜くためにも、チームの力を厚くするためにも、克服しないといけない点だ。

 五輪メンバーに選ばれる。五輪でメダルを獲得したい。どちらも魅力的な分だけ大仕事だ。簡単なことではないし、それだけのエナジーを求められる。
 しかし立山は、そこに挑めていること自体が嬉しい。ラグビーができている現状に感謝する。だって、昨年の3月には絶望の淵にいたから。

 2019年3月16日だった。フランス遠征での強化試合の途中、右ヒザを痛めた。
 ピッチの外に出て「(じん帯が)切れているね」と告げられると、試合の最中にもかかわらずベンチで泣き崩れた。ラグビーを始めた頃からの夢、五輪出場が遠のいたと思ったからだ。
「フランスにいる間、気分が落ちたままでした」
 以前には左ヒザの前十字じん帯の断裂も経験していた。

 帰国後、3月27日に手術を受けた。
 異国の地ではふさぎ込んでいた気持ちも少しずつ前向きになる。家族や周囲の仲間たちの存在が大きかった。
「(2020年の夏に開催予定だった)」オリンピックまで1年ちょっとあったので、頑張ればなんとか間に合う。そう思うようにしました」
 しかしリハビリを経て復帰しようとしていた2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大が進み、五輪延期も決まる。
「最初は驚きました。でも、ヒザの具合がまだ完全にフィットしていなかったし、パフォーマンスも上がっていなかった。だから(時間ができて)コンディションを上げていけるかもしれないと、ポジティブに考えるようにしました」
 諦めなくて本当に良かった。

 3月には日体大を卒業し、データバンク株式会社に就職した。しかし、現在も日常の活動拠点は大学ラグビー部に置いている。
 大きな目標に向かう勝負の時期だ。環境を変えることに不安があった。大学の古賀千尋ヘッドコーチに相談すると「残りなよ」と言ってもらえたから、慣れた環境に身を置き続けることにした。

 それを受け入れてくれた会社の理解にも感謝している。普段は15時までデスクワークや電話の問い合わせ、PCでの書類作成などに取り組み、夜、日体大でのトレーニングへ。
「これまでアルバイトもしたことがなかったので、仕事をしてお金をいただくことは初めてです。覚えることも多くて大変」と話す表情が充実しているのは、内面の成長ゆえだろう。ケガも含め、いろんなことを経験して大きくなった。

 代表候補には、日体大で同期の堤ほの花、清水麻有をはじめ、バティヴァカロロライチェル海遥など、同い年の選手たちも多い。
 五輪メンバーに入るためには仲間である一方で競い合う相手も、「ライバルというより、一緒に頑張ろう。一緒にオリンピックに出ようね、という感じでやっています」と笑顔を見せる。
 ラグビーが好きだ。仲間も。
 プレーができるコンディションを取り戻し、一緒に頑張れる仲間がいる幸せをパワーに変え、毎日を過ごしている。


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