国内 2020.08.11

本人と関係者が証言。次世代ジャパン候補ナエアタのブレイク前夜に迫る。

[ 向 風見也 ]
本人と関係者が証言。次世代ジャパン候補ナエアタのブレイク前夜に迫る。
豪快な走りでNECのタックラーをなぎ倒す神戸製鋼のタウムア・ナエアタ。2019カップ戦(撮影:松村真行)


 次世代のラグビー日本代表候補と名高い1人は、神戸製鋼のタウムア・ナエアタだ。

 26歳までにフル代表の選出経験はないものの、2020年の国内トップリーグでチームの正NO8として大ブレイクした。

 公式で「身長193センチ、体重110キロ(自己申告では120キロ)」のサイズでぐんぐん加速。相手を蹴散らし、「ターゲットをしっかり見れば投げられる」という大胆なオフロードパスを繰り出す。

 守っても要所でのジャッカル、倒れてはすぐに起き上がる勤勉さで仲間を助ける。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中断したシーズンにあって、最大の成長株と目された。

「早くラグビーがスタートして、皆にグラウンドで会えるのを楽しみにしています」

 9歳で始めたテニスもかなりの腕前だったが、大人になっても続けるスポーツはラグビーとなった。生まれ育ったトンガでは、ラグビー選手としての成功が外貨を得る貴重なチャンスとされていた。

 リアホナ高から移った強豪のトンガカレッジ高では、シオシファリサラ(豊田自動織機)、アマト・ファカタヴァにタラウ・ファカタヴァ(ともにリコー)ら、のちに来日する実力者とともに腕を磨いてきた通称「ルイ」。2014年の初来日を促した流経大の内山達二監督兼ゼネラルマネージャーは、ナエアタの印象をこう語る。

「気が強いから(仲間内で)ちょっとしたディスコミュニケーションはあった。プレー面ではディシプリンが課題で、ラフな部分が見えたときは注意しました。謙虚さは忘れるなと言ったこともあります。ただ、彼の一番の強みは、全力を出せること。グラウンドレベルでは常に100パーセントの力を出す子で、フィールド内で努力するからどんどん伸びていきました。(普段は)優しく仲間を大切にする。最近もうちの練習に来てはいまいる留学生の面倒を見てくれます」
 
 野心と向上心の塊だった。その気質を進化に直結させられたのは、2018年に神戸製鋼へ入ったからだろう。同部では、元ニュージーランド代表アシスタントコーチのウェイン・スミス総監督と邂逅(かいこう)。スミスとデーブ・ディロン ヘッドコーチとの二人三脚はクラブを底上げし、同年には15季ぶりとなるトップリーグ制覇を成し遂げた。

 特に際立つのは、ナエアタや中島イシレリといったアイランダー系の選手に適度な緊張感を与えたことだ。2020年6月まで5シーズン、神戸製鋼に在籍した三菱重工相模原のイーリ ニコラスは、こう証言したことがある。

「ディロンさんはもともと先生をしていて、彼のいた学校にはアイランダーの学生が多かったようです。ウェインも所属していたチーフスでいろんなアイランダーの選手と接していた。きっと、アイランダー選手へのアドバイスの仕方がよかったんだと思います。トンガにはもともと身体能力の高い選手が多い。メンタルとラグビーIQの質を上げたら、そういう(ナエアタのように爆発する)選手はもっと出てくると思います」

 優勝したシーズンこそあまり出番に恵まれなかったナエアタだが、雌伏期間にも着実に進化した。油分やスイーツを控えて体脂肪率を6パーセントも減らし、その効果でプレー中の仕事量を増やした。

 なにより各種プレーの基本を見直し、2019年のカップ戦ではチーム内のMVPを獲得。大学の先輩でもある中島がNO8から左PRに転向したこともあり、代表クラスの主力が合流したのちもレギュラーを譲らなかった。2020年の大活躍は、ほぼ予定されていたと言える。

 世界的な名コーチのスミスに何を教わったのか。そう聞かれたナエアタは、急成長の過程をこう振り返るのだった。

「ミスは気にせずどんどんチャレンジするようにと毎回、言っています。それと、結構、細かいことを教えてくれる。僕のフィールドの動きもよく見ていて、ミーティングの時に指摘されます。それをしっかりメモして、空いた時間にそのことについての練習をします。うまくなるために」 

 現在は妻の友里加さんの実家がある茨城県に滞在し、母校などで汗を流す。2020年中の日本代表入りへ間近に迫るなか、バイクを漕ぎ、芝を駆ける。

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