国内 2020.07.28

着任早々に休校も学生の視野広げる。富山・砺波高ラグビー部青年監督の試みとは。

[ 向 風見也 ]
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着任早々に休校も学生の視野広げる。富山・砺波高ラグビー部青年監督の試みとは。
富山県立砺波高校ラグビー部の城石敦也監督


 城石敦也はこの春、日体大を卒業して母校である富山県立砺波高の体育教諭になったばかり。新任1年目の春から、なかなか生徒との対面が叶わなかった。監督を任せられたラグビー部の部員へも、4月からの約2か月間は直に挨拶ができずにいた。

 新型コロナウイルスの影響を受け、しばらく学校が閉まっていたからだ。

「(自身も)2日に1回は在宅勤務。この先、休校がいつ明けるかもわからない状態でした」

 しかし、転んでもただでは起きなかった。前年度に教育実習をしていたこともあり、既存の選手の顔と名前は覚えてはいた。情熱を絶やさなかった。

「とにかくラグビーを教えたい気持ちが強かった」

 もともと身体を動かすのが好きだった。「体育を教えたら楽しそう」。日体大へ進んだのは、教員免許取得の制度と関東大学対抗戦Aに加盟のラグビー部に惹かれたからだ。

 上京後に気づいたのは、チーム文化と試合結果との関係性だ。1年時は下部との入替戦に出たチームが、最終学年時はもともと上位校だった慶大を倒すなど一定の成果を残した。ふたつの時代を比較すると、留学生選手の定着以外にも顕著な違いがあったと城石は言う。

「対抗戦の成績がいい時は、朝練を欠席する学生が少ないとか、(部内で義務付けられた)体重の記入をさぼらずにやるとか、当たり前のことが当たり前にできるようになっていたと気づきました」

 見聞も広められた。秋廣秀一ヘッドコーチの計らいで、障がいのある子どもにラグビーを教えたり、医療従事者の講演会に出かけたり。強豪校出身者と練習できたためグラウンド内での学びも多かったが、もっとも心に残るのはグラウンド外での学びだった。

「直接プレーには関わらないことで、考え方を(深められた)。それに、ラグビーだけで食べていける人はごくわずかだとも気づいて。いつかはラグビーを辞める日がくる。その時にラグビーしかやってきませんでした、では、社会で通用しない。どの世界でも渡り歩いていくスキルを身に付けておくべきだと思いました」

 規則正しい生活を送り、多彩な経験を積む。その重要性を知る城石は、コロナ禍を生きる若者たちにふたつの機会を与えた。

 ひとつは毎朝、昼のオンラインミーティング。ある時は特定のプレー動画を見てもらうよう促し、またある時は練習再開後に共有するチーム戦術を予習させた。新人教師としての生活基盤ができた5月1日以降は、専用のアプリを使って一斉にトレーニングもした。

 意図を語る言葉は、大学ラストイヤーにつかんだ「当たり前のことが当たり前にできるようになっていた」という手応えとも重なる。

「もし僕が生徒だったら、朝は絶対に寝ているなと思いました。だから生活リズムを正すためにも、朝、全員の顔を見る」

 その流れでおこなったもうひとつの試みが、オンラインセミナーだ。トップリーグの日野でプレーする田邊秀樹や7人制日本代表でアナリストをする中島正太ら、名のある講師を招いた。広い世界に触れる喜びを、早いうちに知って欲しかった。

「いまの高校生って、普通に生活を送ってるだけでは顧問の先生と担任の先生と同じ高校の生徒としか関わらないかもしれない。本当に狭い世界にしか触れられないなか、少しでもいろんな人の話を聞いて、少しでも得るものがあればいいなと思った。だから、積極的に外部の方をお呼びしました」

 季節が変わり、徐々にグラウンドへ出る機会を増やした砺波高。目指すは全国大会出場だ。大阪の東大阪市花園ラグビー場での大舞台からは、2005年度を最後に遠ざかっている。

 進学情報サイト『みんなの高校情報』によれば偏差値は66で、スポーツ推薦制度を持たぬ公立校である。中学まで未経験だった選手が主体で、6月中旬時点の部員数は「3年9人、2年8人、1年生7人の24人が選手。マネージャーが4人」と城石監督。仲間作りには苦労する。

 まして今季は「人との接触を避けるように…なんて言われると、勧誘は難しかった。なんとか僕が(6月からの)体育の授業で気になった子に声をかけて…という感じ」。苦しい胸のうちを明かすが、進学校ならではの強みも感じている。

「選手間に理解度の差がない。ウェイトトレーニングでのフォーム、グラウンド練習のポイントなど意識すべき点を伝えたら、それができる、できないは別としてやろうとはしてくれる」

 活動再開後のグラウンド練習では、自ずと「これ、オンラインミーティングでも言ったことだけど…」と切り出してスムーズに確認作業ができるようにもなっている。ミッションクリアに向け、近年の学生に欠けていそうな自己肯定感を植え付けたい。

「ずいぶんと花園(全国大会の会場)から遠ざかっているので、ウイニングカルチャー、勝ち癖がないんです。どこかで花園に行っておかないと。本気で目指すのかどうか、生徒に問いかけています」

 昨年11月の新人戦県大会決勝では、前年度の全国大会に出た富山一高に0-31で負けている。9月の全国大会予選でその差を覆すべく、進むべき道を信じて懸命に戦う。

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