明大の雲山弘貴が、コロナ禍でも寮から実家へ戻らなかったわけ。
日本政府が緊急事態宣言を発令する直前の4月5日、明大ラグビー部は一時解散。都内の寮に住む約90名のうち、半数程度の選手が親元へ戻った。
しかし、兵庫県出身の3年生部員、雲山弘貴はその場に留まった。将来を見据えての決断だ。
「いったん帰ったら、いつこちら(東京)に戻ってこられるかわからないですし、ウェイトトレーニングをする場が(実家の)近くにない。環境は、こっちにいた方が整っている。今後のラグビー人生を考えてやりました」
身長186センチ、体重91キロの大型FBは、スペースを射抜く走りに定評がある。
報徳学園高時代は高校日本代表入りし、大学2年だった昨季は不動のレギュラーとして大学選手権で準優勝。そのまま国際リーグのスーパーラグビーに挑むサンウルブズへ練習生として加わる。沢木敬介コーチングコーディネーターの助言、それぞれ早大、パナソニックから参戦の齋藤直人、森谷圭介主将の態度に触れられたのがよかった。
ひとつひとつの動作を丁寧にしよう、と再確認できたのだ。
「沢木さんは、キックする時には(弾道を安定させるため、ボールを常に)同じ持ち方で…とアドバイスをくれました。それに、私生活にラグビーを採り入れることが大事とも。齋藤さん、森谷さんはウェイト前、(チームが定めた動きの他に)自分で伸ばし足りないところをストレッチしていた」
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で社会が変わったのは、ちょうど雲山がチームへ戻ってさらなる進化を狙っていた折だ。不測の事態に直面した青年は、「(外出しづらい生活で)ストレスは溜まりますけど、感染したら意味がない」とすべきことに没頭した。
全体練習ができなかった春先は、早めに朝食を摂って10時頃から自主トレーニングに励む。昼食の後にオンラインで授業を受け、夕方はジムワークを重ねた。持久力と筋力の向上がテーマだ。
「(持久力については)試合の終盤になったら動けないことがあって、自分に足りない部分だなと思って。(筋力については)サンウルブズの練習に行かせてもらった時、周りの選手と比べても(ウェイトトレーニングの)重量を上げられていなくて、身体をもっとでかくしないと戦えない」
自分に課した宿題をこなすなかで、よりスケールアップを図る雲山。かねて心で誓っていた将来の日本代表入りへの思いを、日増しに強めている。
将来の進路についても「あまり具体的なことは言えないですけど、自分自身、強いチームに身を置きたい。強いチームで試合に出ることが、一番、目標に近づける(方法)と考えました」。今季の意気込みを聞かれれば、柔らかい声色で力強い言葉を残した。
「去年までは(上級生に)ついて行った立場ですけど、今年は自分からチームを引っ張る立場になりたいです」
尊敬するのはボーデン・バレット。ニュージーランド代表で自身と似た役割を担い、まもなくこの国のサントリーに加わる。この人のような、プレーの数手先を読みながらのポジショニングも心がけたいと雲山はいう。2023年のワールドカップ・フランス大会で対戦できたら、さぞ楽しいだろう。