コラム 2020.07.01
【ラグリパWest】伏見と仰星。指導者として、教育者として。

【ラグリパWest】伏見と仰星。指導者として、教育者として。

[ 鎮 勝也 ]



 山口ももちろん教育者の一面がある。その親交が40年を超える協会関係者は言った。
「先生は生活が苦しい家の子供も、海外遠征に連れていくんやで」
 その費用のやり繰りをする。劣等感を持たさず、次のステージに送り出す。

 山口が監督就任4年目の教え子が高崎だった。この春、京都工学院の教頭から定時制の伏見工の校長に転出する。その伏見工が統合され、来年4月に開校する京都奏和(そうわ)の校長につく予定だ。
 新校は定時制を維持し、不登校経験のある生徒も受け入れる包括的な普通科になる。

「指導者としての異動なら、抵抗していた。教育者としてやったからね」
 高崎はこの異動を笑みで迎える。監督として冬の全国を2回(80、85回大会)制した。この数字は恩師と並ぶ。高校日本代表の監督も経験。山中の日本代表のチームメイトとなったSH田中史朗、SO松田力也も育てた。
 その履歴とは関係ない場所で生徒と向き合う。山口の教えは現場で生き続ける。

 今年2月に喜寿を迎えた山口が別格なのは選手としても一流だったことだ。
 キッカー兼任のFLとして日本代表キャップ13を持つ。1971年(昭和46)9月28日、東京・秩父宮であったイングランド戦は3−6。番狂わせを演じかけたジャパンの唯一のPGは山口の右足から生まれている。

 山口は教育者、指導者、選手と三拍子そろった稀有な存在である。テレビドラマ『スクール☆ウォーズ』が作られたのも当然だった。「泣き虫先生」の認知度は依然高く、現在は京都工学院の総監督をつとめている。

 還暦をひとつ越した土井は高崎と同じ時期、東海大相模の校長になった。
 野球の原辰徳(現・巨人監督)や柔道の山下泰裕(現・東海大副学長)を育てた相模は、東海大付属の13校(甲府は別法人)の中で旗艦的な存在だ。土井はその学校で中高のどちらの責任も受け持つ。ラグビーを通したこれまでの教育が評価されたことになる。

 指導者と教員の両立は難しい。
 それでも、あえて次代を生きるよき人を作る。コロナの時代、指導が難しい今だからこそ、教育の部分を磨き込める。

 両校は年2回、定期戦を組んでいる。試合日は1月と9月の第1日曜。新チームの始動時と秋のシーズン直前に合わせている。

試合に敗れても前を向く京都工学院の選手たち。指導者の教えがにじむ。(写真/BBM)


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