コラム 2020.06.04
【コラム】できなかった時間

【コラム】できなかった時間

[ 直江光信 ]
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 本来ならできていたはずのことが次々とできなくなり、ひとりぼんやりと考える日々の中では、なかなか前へ進んでいる実感をつかみにくい。自分の現在地を把握できない状況は、「このままでは目標に届かない」という焦りにもつながるだろう。でも、この数か月間の空白は、「何もしなかった時間」とは違う。絶対に。

 きっと多くの選手、指導者、スタッフたちが、さまざまなストレスと向き合いながら、長い辛抱の毎日を懸命に過ごしてきたはずだ。そうした苦難を乗り越えて再開のスタートラインに立ったことを、どうか誇りに思ってほしい。できなかったことばかりに目を向けるのではなく、できたことを見つめて、自分を励ます糧にしてほしい。

 待ちに待ったチーム練習再開。休止期間中の遅れをいち早く取り戻すために思い切り体をぶつけ合いたいのに、悔しいけれどそれはもうしばらくかないそうにない。他チームとの実戦は、練習試合ですらいつからできるようになるのかわからない状況だ。インターハイに続いて夏の甲子園大会までもが中止となる中、ターゲットに定めてきた大会が開催されるのかという不安もあるだろう。もちろんウイルスの脅威もなくなってはいない。

 そんな現在の状態は、いわば悪路でブレーキをかけながらアクセルペダルを踏み込んでいるようなものだ。そこで無理をすれば、知らず知らずのうちにため込んでいたフラストレーションが暴発し、思わぬ方向へハンドルをとられかねない。

 今後のチームづくりについてオンラインでかわした激論は、グラウンドや教室での熱気を帯びたミーティングと何ら変わらない意義がある。ラグビーのできない悲しみを味わって、ラグビーをできることのありがたさを知った。それは、「できなかった時間」を過ごしたから見える境地なのだと思う。

【筆者プロフィール】直江光信( なおえ・みつのぶ )
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長

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