【コラム】遅すぎるなんて無いさ。
「ラグビー経験の浅い者どうしの戦い。うちはシンプルに、積み重ねてきたことを出せればと考えてました」
郡山北工は、福島では単独チームがめっきり少なくなった公立高校の希望のたいまつだ。県内では近年、新人戦になれば、公立も私立も合同チームで灯をつなぐ高校が少なくない。その地から、2019年度は34人の部員を抱え花園出場を勝ち取った。メンバー中、中学時代のラグビー経験者は2名で、ともに、1年生(当時)。
愛称・北工(キタコー)は、郡山地区の中学生たちにプレーの場を、と、高校部活動に中学生を一部合流させている。週末のラグビースクール以外にも練習がしたい子は、キタコーの高いレベルを実感できるチャンスがある。監督は参加者の中学生たちの進路を絞らず、キタコー以外のチームも勧める。そうして、大事に大事にラグビーの苗を育てているが、中高年代のラグビー人口は、思うように増えてはいない。小野先生だけではなく、福島県の高校指導者は、自校の強化と同じくらいに、県全体のレベルアップに頭をひねって、ヒザを付き合わせている。
県代表校の活躍はきっと普及にもつながる。だから、よけいに若狭東には勝ちたかった。
「ふだんの練習で、できるだけ実戦的な場面を増やす。それが、この子たちには大事な経験になると考えてます。その意味で、フルコンタクトつきの練習を多くしてきました。しっかりコンタクトを教えてやれば、『意外と痛くねえな』って、苦手意識を持たないで、思い切ってプレーできる。その子が持ってる本来のいいところが出てくる」
「ただきょうは、違う面も考えさせられました。若狭東の選手とは、選手自身のゲーム理解に差がありました」
前半は5度リードが入れ替わる激戦で、21-19でキタコーがリードして折り返した。しかしその後、21-22、21-29、21-36、と若狭東が連続得点で試合を決めた。
新たな課題を得た小野監督は淡々と話した。常に力を尽くしているから、次の「すべきこと」が見つかるのは、前進のための糧になる。「きっと朽木先生(若狭東監督)が、生徒に理解できるように伝えてらっしゃるんだろうと思います。ラグビーが上手かった。ボール争奪も強かった」
キタコーの主将、望月誠志朗は、中学までの柔道経験がある。唯一、2年前の花園を選手として知るプレーヤーでもあった。この日も持ち前のパワーで、NO8として何度も力強い突進を見せた。運動量で負けないラグビーを目指してきた。だから、後半に水を開けられたのは悔しい。
「アップの時に、みんなが固くなっているのは感じてた。もう少し、うまくほぐしてやりたかった。自分たちのやりたいラグビー、カウンターラックからの攻めが、もっとできてたら」
卒業後は、建築業に従事予定、大工の道を歩むという。ラグビーで学んだのは、自分で判断して動くこと。そして、これと決めたら最後までやり切ること。きっと、それはこれからも生きると、先生と同じく淡々と話した。
(つづく)