いま、できることはピッチの外に。竹下祥平(サントリー)のチーム愛
自身のラグビー人生を「95点」と言った。
満点にわずかに足りないのは、「今シーズンが途中で終わったので、最後までチャレンジし続けられなかった。それが残念なので」。つまり、自分でやれることはやり尽くした。
竹下祥平(CTB)は、サンゴリアスで過ごした8シーズンを幸せに過ごした。この春の引退を、「すっきり」迎えた。
法政大学から入社した2012年のシーズン、サントリーのバックスにはこの国を代表する選手たちがずらり並んでいた。
自分とポジションが重なるTB、FBだけでも有賀剛、小野澤宏時、長友泰憲、平浩二、ニコラス ライアン。フロントスリーにも日和佐篤、トゥシ・ピシ、小野晃征がいた。
「そんなメンバーがいましたから、チャレンジするつもりで入りました。長くやれないかな、という気持ちもあった。それを考えたら、こんなにやれるとは思わなかった」
正直な気持ちだ。
8シーズンでサンゴリアス キャップ(トップリーグ/カップ戦は除く+日本選手権)は23。それを得るためのチャレンジに悔いはない。
ただ、「(そのチャレンジは)求めていた結果に繋がらなかった」とも話す。
「サンゴリアス にいるからには、優勝の瞬間にグラウンドに立っていたかったですね」
2014年度の日本選手権ではファイナルに挑む23人のメンバーに入った。しかし途中出場の指示が後半30分過ぎには出るも、プレーが途切れず、長い時間をピッチサイドで過ごした。
やっと試合に加わると次のプレーでボールがタッチに蹴り出され、フルタイムの笛が鳴る。その時、拳を築き上げたのは相手チームだった。
シーズン最終戦のメンバーに選ばれたのだから、同年は充実していた。8試合に出場した(先発3戦)。
2016-2017シーズンは7試合でプレー。6戦が先発だ。
「ただ、その年もシーズン前半は良かったけど、後半はそれを続けられませんでした。多く試合に出た年(2014年度)も途中出場が多かった。シーズンを通して試合に出続けることは(引退するまで)叶わなかった」
自身を「コツコツ地道にやっていくタイプ」と語る。
「ボールキャリー。そしてブレイクダウンに頭を突っ込む。チームに求められているものに応える。それを考えてきました」
相手に触れられず抜く。そんな理想を頭に動いた時期を経て、そのときの自分ができる最大限のパフォーマンスを追うようになった。仲間の力を引き出し、トライを生んだ。
周囲から学び、自分も伸びた。
「WTBのディフェンスは長友さんから教わりました。外から詰めるスペシャリストでしたから」
年齢を重ねるにつれ、自分だけでなく、周囲への影響も考えて動いた。
「例えば試合に出られないとき、誰でもモチベーションが落ちる時がある。自分もそうでした。でも、周囲に若い選手がいるときにそれを感じさせるわけにはいかない。自分の振る舞いが若手を刺激するように考えて動きました」
誰が急にピッチに立っても、同じようにチームのスタイルを実践できる。サンゴリアスのその文化を守るためにやれることはやった。「勝つばかりでなく、負けも経験したから学べたことがあった。一人ひとりのやるべきことが明確なときにチームは強い」と淡々と話す。
6歳の時に福岡、草ヶ江ヤングラガーズに入った。東福岡高校では2年生のときに花園で準優勝。3年時は同校の初優勝に貢献した。
当時主将を務めていた山下昂大(コカ・コーラ)も2019年度シーズンを最後に引退を決めたが、トップチャレンジリーグは先にシーズンを終えていたから「同期の中で、自分がいちばん最後まで現役を続けたことになりました」。
いま30歳。その年齢で初優勝の偉業を手にした同期がトップレベルから姿を消すことについて「少し早い気もしますが、それぞれ次の人生も考えてのことだと思います」と仲間の選んだ人生を尊重する。
竹下自身、引退は自分で決断した。シーズンのすべての中止が決まった時、すぐにGMに連絡し、意思を伝えた。シーズン前から、今季にすべてを懸けて現役生活を終えようと考えていた。
一歩引いて自分を見つめ、決めた。
「あと1年(2019年度)チャレンジしようと思いました。それ以上は、(チームに対し)もう僕にできることはないかな、と。(2年前に右膝の前十字靭帯を断裂したこともあり)最近は、あまり試合に出られていませんでした。若く、いい選手も入ってきています。ここが引きどきと感じました。(現役を)続けたくても叶わない選手もいる中で、ここまでプレーさせてもらい、自分から退く意思を伝えさせてもらえた。本当に恵まれていたと思います」
自分にできることはない。
ただ、その言葉はピッチの上での話に限られる。
サンゴリアスのためにやりたいことがある。ピッチの外には、自分がやれること、やるべきこと、やりたいことがある。
「しっかり仕事にシフトチェンジしたいと思っています」
そう話すのは、これから引退する選手たちのことも考えているからだ。
「自分がしっかり働くことで、『ラグビー部出身者は頑張るぞ。だから自分の職場に』と思ってくれる人を増やしたい。後輩たちのために、そういう環境を作りたいですね。自分がいまの職場にいるのも、先代の先輩たちがペースを作ってくれたお陰だと思っています。ラグビー部(出身者)はできる。そういう空気をさらに強くできたらいい。いまの選手たちが、社業でも、もっと頑張れるようにしたいと思います。いまの僕には、そういう形でしかチームには貢献できません」
長く受け継がれてきたカルチャーは続く。
サンゴリアスは、またひとり、頼りになるサポーターを得た。