サンゴリアスで見た世界。芦田一顕、挑み続けた8年を終える
まるでワールドカップだ。
芦田一顕(あしだ・かずたか)が入社した2012年当時、サントリーの府中グラウンドにはスターがうじゃうじゃいた。
FLのジョージ・スミスは豪州代表キャップ110を持っていた(最終的に111)。LOのダニー・ロッソウは南アフリカ代表で63キャップ。日本代表は各ポジションに散らばっていた。
自分と同じSHには、2007年大会を制した南アフリカ代表のフーリー・デュプレア(当時62キャップ/最終的に76キャップ)がいた。2011年大会で日本代表として活躍した日和佐篤も。
関西学院大を卒業したばかりの若者は、そんなところに飛び込んだ。
入社前の2月、チームの練習に加わる機会があった。
「フィットネスとコンタクトを混ぜた練習でした。そのとき眼窩底を骨折したのですが、そのまま最後までやりました。厳しいのは分かっていたのですが、これがサントリーかあ、と、あらためてびっくりしました」
覚悟を決めて飛び込み8シーズン。この春から社業に専念することになった。
入社4年目の2015年には、2年目から主将に就き、のちに日本代表にもなった流大も加わった。つまり、いつも強大なライバルたちに囲まれていた。
結果、8年で得たサンゴリアスキャップ(トップリーグ/カップ戦は除く+日本選手権)は14。本人は、「なかなか試合に出られなかったのは悔しかった。でも、トップレベルの選手たちにチャレンジできたのは、本当にいい経験になった」と振り返る。
大学時代から見ていた憧れの人とともにプレーできる喜び。
一級品の後輩の力を認め、切磋琢磨する。すべてが自分を成長させた。
本人は「日和佐さんがジャパンで抜けたり、フーリーが腰痛になったり。そんな理由もあって出番が回ってきた」と話すものの、入社以来、2試合、4試合、6試合と増えていった出場機会は、2015年以降の5シーズンで2試合だけに減った。
「(出場の)可能性が減っていくのは感じていました。いつ引退となってもおかしくない。早くからそう感じていました」
でも、意欲だけは失わなかったからここまでやれた。
「試合に出るメンバーとの(攻防の)練習では、抜いてやろうとか、そういう気持ちはいつも持っていました」
大阪・交野第一中でラグビーを始め、同校の3年時からSHになった。
東海大仰星高校時代に先輩のスキルに衝撃を受け、朝練などでの基礎練習で技術を磨く。土井崇司監督(当時)の理論、厳しさと出会ったのも大きかった。
関西学院大を経てトップチームへ。サントリーではトッププレーヤーだけでなく、一流の指導者とも出会ったから学びは大きい。
今後の人生に活かせることは多い。
デュプレアや、スポットコーチとしてたびたび指導を受けたジョージ・グレーガン(豪州代表139キャップ)からは、準備の大切さを教わり、そのときにルーティーンを持つようにアドバイスを受けた。
「大好きです」というチームから得たものもたくさんある。
「チームカルチャーを持つことは大事ですね。サンゴリアスなら、アタッキングラグビーという軸があるから、何かあっても、そこに立ち返られる」
リーグ9位と沈んだ翌年から2連覇。その過程の中にいて、全員で同じ方向を見ることが生む力も知り、「これからの仕事でも活かせること」と話す。
思うように出場を重ねることはできなかったけれど、意識の高い集団の中にいたからこそ成長した自分を感じた試合がある。
14試合あるサンゴリアスキャップに含まれるものではないが、2018年11月24日におこなわれたトップリーグのカップ戦、ベストメンバーのNTTコムに33-26と勝った試合は会心のゲームだ。
「こちらは日本人選手が多く出ていました(23人中外国人選手は2人)。すごく一体感のある時間でした。ヒカル(SO田村熙)とのコミュニケーションもよく取れて、あとで振り返ってみても判断ミスなどなかった。SHは間違いがなくて当たり前のポジションなので、そういう意味でもよく覚えています。レベルの高いSHに囲まれた中で得たものを出せたのだと思います」
その試合では「好き」と言うディフェンスでも強みを見せた。
「前半に(NO8の)アマナキ(レレィ・マフィ)に当たられ、飛ばされました。でも後半は早めに間合いを詰め、止めた」
公式戦に出られても途中出場がほとんどだった。勝負の行方がおおかた決まった中でピッチに入るとき、複雑な気持ちだったこともある。接戦時、出番のないままベンチに座ったままのこともあった。
そんなとき、「足りないものは何か」と自問自答した時間も自身を成長させた。前述のタックルも、その一部だ。
新しい生活の中で、サンゴリアスを全力で応援していく。
頭と体に詰め込んだラグビーの知識とスピリットを伝えることもしていきたい。大学時代の同期、小樋山樹さんがこの春から母校、関西学院大の監督に就いた。「時間があるときに足を運び、(後輩たちに)伝えられることを伝えていければ、と思います」と話す。
「大学のチームは人数も多い。その中で、モチベーションの差も大きい。トップリーグのチームとは違うところも多いのですが、誰もがラグビーを好きなままでいてほしい。その手助けができたらいいですね」
パスには自信がある。府中で知った「世界」を多くの人につないでいく。