日本代表 2020.04.06

流大、空前のブームのさなかに伝えたラグビーの味わいと価値。

[ 向 風見也 ]
流大、空前のブームのさなかに伝えたラグビーの味わいと価値。
サントリーサンゴリアス、日本代表で強いリーダーシップを発揮する流大(撮影:向 風見也)


 不可能はない。勝てない相手はいない。

 ラグビーワールドカップ日本大会で初の8強入りを果たした日本代表の流大は、その戦いを通して伝えられたメッセージについてこう説明した。

 身長166センチ、体重74キロの利発なSHが話をしたのは昨年10月下旬。所属するサントリーのクラブハウスでのことだ(東京)。ナショナルチームは、20日の準々決勝を終えた翌日に解散していた。

「特に、子どもたちに対してメッセージを与えられた。自分たちの頑張りとチームの力があれば何でもできると伝えられたと思います」

 確かにこの時の日本代表は、欧州6強のアイルランド代表、スコットランド代表などと同組のプールAで全勝。ほぼ1週間おきに試合が組まれたスケジューリングをはじめとした開催国としてのホームアドバンテージを背にしながら、試合ごとに練り上げたゲームプランを徹底していた。

 例えば開幕直前に世界ランク1位だったアイルランド代表との一戦では、相手が球を保持した際の圧力を回避すべく、自軍が多くボールを持つよう意識。守っても鋭い出足のタックルで、直線的な突進を食い止めた。

 特に際立っていたのは、海外出身FWだったと流は言う。特に空中戦とタックルで光ったジェームス・ムーア、地上戦で身体を張りながら5戦中2戦でゲーム主将を任されたピーター・ラブスカフニを称賛する。

 大会後はキャラクターの濃い稲垣啓太に堀江翔太、ヴィヴィッドなトライを決めた福岡堅樹や松島幸太朗にスポットが当たったが、流は再三、強調する。

「メディアに出るようなメンバーは限られている。ただ、それだけじゃないということを僕は伝えたいです。ジェームスであればラインアウトの分析をして、みんなとコミュニケーションを取りながらラインアウトを作り上げていた。身体も相当、痛いと思うんですけど、タックルをしてくれていて、ボールキャリーとしても前に出てくれる。ラピース(ラブスカフニ)は初めてのワールドカップでリーチ(マイケル)さんの代わりに主将を……。いまこうして言っていることだけでは収まらないくらい素晴らしいことはたくさんあって。1人、2人が活躍したというわけじゃない。さらにワールドカップ期間内にいた選手、スタッフだけが頑張ったわけではない。それを知っていただけたらな、と、僕は思います」

 そして、ワールドカップを日本でおこなった意義については、こんな私見を明かした。

「ラグビー選手はジェントルマンで、(開催国の)日本を尊重し、文化を受け入れることを行動してくれた。僕らは逆にホテル、飲食店で外国人と会う機会はあったんですが、素晴らしい方ばかり。いろんな国の人々をラグビーでつなげられたのが一番の功績だと思います」
 
 当時は新型コロナウイルスの感染拡大など想像すらできなかったろう。ただし問答を通し、ラグビー界の未来予想図について言及することがあった。

 2021年秋に発足予定の新リーグについては「(詳細がわからないため)意見はないです」としながら、「ラグビーにしかない良さ、文化、人」の重要性を述べていたのだ。

「人気、人口、観客数でよくサッカー界や野球界と比べられることがあります。もちろん観客を呼ぶシステムができ、人気が高まることは大事ですし、必要なことです。周りと比較してよくしていかないといけない部分ももちろんあると思います。ただ、僕が思うに、ラグビーにはラグビーにしかない良さ、文化、人がある。それを発信し、より知ってもらえたらと思っています」

 あの時の日本代表が示した、多様な個性が一丸となるさま。あの時の各国代表が示した、異文化を前向きに受け入れタフに戦うさま。アジア初のラグビーワールドカップが残した無形のレガシーを、折に触れ伝えてゆく。2023年のフランス大会開幕時は、31歳となっている。

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