日本代表 2020.04.04

いま思い出したいラブスカフニの聖なる言葉。

[ 向 風見也 ]
いま思い出したいラブスカフニの聖なる言葉。
日本代表のピーター“ラピース”・ラブスカフニ。写真は2019年8月に撮影したもの(撮影:向 風見也)


 新型コロナウイルスの感染拡大が世界中の市民の心身に影響を及ぼすいま、この国のラグビーファンが思い返すのは輝かしい瞬間だろう。

 2019年秋のワールドカップ日本大会で、日本代表は8強入り。自国開催大会で初の決勝トーナメント進出を成し遂げた当時のチームにあって、MVP級の働きを示したリーダーの1人がピーター・ラブスカフニだ。南アフリカ出身。身長189センチ、体重106キロの31歳である。

 ワールドカップイヤーに入ってから日本代表デビューも、それ以前からタフさとリーダーシップが買われていた。

「自分の役割と責任は何か、何を求められているかを意識してきました」

 きょうだいチームのサンウルブズへは2018年に加わり、自衛隊での特別訓練で同じグループの味方を前向きな声掛けで鼓舞。この年ナショナルチームの指揮官と兼任していたジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは、近しい人物に「初めから彼を主将にしてもよかった」といった旨で話したという。

 そのため、シーズン中ゲーム主将任命があったことも自然な流れだった。翌年に立ちあがった強化機関のウルフパックでも、ラブスカフニはリーチ マイケル主将らとリーダー陣を形成した。

「出身国の違う選手同士が、リスペクトをし合っています。大きな問題を生みかねない小さな問題が生まれた段階で、お互いの文化背景を理解し合ってゆくべきだと話し合っています。チーム内にいろんな文化があることを、不利というより有利な点だと捉えています。お互い背景が違うからこそ、お互いのことを学べます。でも同じチームの一員として、同じゴールに向かっていきます」

 本番が始まる前にはこう意気込んでいた通称ラピース。いざ開幕を迎えると、オープンサイドFLとしてチームが参加した全5試合に先発。ロシア代表との開幕戦では相手から球をもぎ取ってからの独走トライを決め、2戦目以降は2戦続けてゲーム主将を務めた。地上戦での出現率と激しさでも際立った。

 その活躍を支えたのは、手持ちのバイブル。両親がクリスチャンだったラピースは、こう話すのだ。

「聖書が自分の人生のガイドラインになってきています。時間をかけて神様と信頼を築いてきた部分もあります」

 7歳の頃から楕円球を追い、グレイカレッジ高卒業後に地元ブルズのジュニアチームと契約する。

 なかなか正規のプロ契約には至らずフリーステート大で会計などを学んでいたところ、ブルズのライバルであるチーターズに声をかけられ、2015年からの2季はブルズでも活躍した。

 2016年に来日してクボタの一員となると、その国の代表として歴史的偉業を成し遂げた。

 かような人生を歩むなか、聖書を何度も、何度も読み返してきた。その足取りを、「時間をかけて神様と信頼を築いていく部分もある」と表現していたのだ。

「正直に言いますと、小さい頃に思っていた宗教、クリスチャンに対する考え方や思いと、いまの思いは全く別物です。聖書には、『ゴールに行くには、火を乗り越えていかないといけない』といった意味合いの一節があります。人生も同じです。人生では難しいこと、壁みたいなものが出てきます。ただしその反対側へ行けるのであれば、もっと純粋なものに出会えると言いますか、火を乗り越えたら乗り越えただけの成長ができる、ということを聖書で教えられました」

 その時々の首脳陣や仲間から尊敬される秘訣を問われれば、「求められている答えになっているかはわかりませんが、確かなのは、どんな環境であっても、自分ができることを一生懸命やる、努力することが何よりも大事だと思います」と即答。対話を深めるなか、こうも続けた。

「自分のなかでよく言い聞かせていたのは、なぜか、ということです。なぜ、これ(チームで課される役割など)をやるのか。その答えを知れば、自分のなかでも理解でき、遂行することで、結果、成果が得られるという考えでやってきました」

 信仰を重んじ、自問自答をし続け、すべきことをし続ける。その哲学はいまなお、貫かれていよう。

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