国内 2020.03.03

神戸製鋼のワールドカップ戦士、ラファエレ ティモシー。妙技連発のわけは?

[ 向 風見也 ]
神戸製鋼のワールドカップ戦士、ラファエレ ティモシー。妙技連発のわけは?
仲間にパスを放るラファエレ ティモシー。写真は2月23日の東芝戦(撮影:早浪章弘)


 誰だって、おもしろいものが見たい。

 野球での華麗なグラブトス然り、サッカーでも股抜きドリブル然り。満員のスタジアムで華美なプレーが生まれれば、スタンドはどよめく。

 今季のラグビートップリーグでもっともファンを楽しませている1人は、神戸製鋼のラファエレ ティモシーだろう。

 ラグビーにおけるパスは、胸の前で両手を振って投げるのが基本形とされる。

 ただし赤いジャージィのアウトサイドCTBがボールを持てば、時にはタックルされながら片手で放り、時には股下から飛ばし、時には背後に腕を通しながら味方へつなぐ。

 1月26日、兵庫・ノエビアスタジアム神戸。昨季の決勝で制したサントリーとの第3節では、後半16分、大きく守備網を破ったSOのダン・カーターを敵陣中央でサポート。預かった球は、すぐに「日和佐が見えた」とSHの日和佐篤へ渡す。

 迫る相手のタックラーに正対しながら、片手で後ろへ放った。

 ノールックパスを決めたのだ。

 ラファエレのファインプレーが神戸製鋼の攻めをさらに加速させ、最後は敵陣22メートルエリア中央でインサイドCTBのリチャード・バックマンが豪快にフィニッシュ。この時の神戸製鋼は一時退場処分を受けてサントリーより1人少なかったが、トライ直後のゴール成功もあり32-16とリードを広げられた。

 ノーサイド。35-29。開幕3連勝にラファエレは笑顔だ。昨季まで在籍のコカ・コーラは下部へ降格するなど低迷していたとあり、強豪クラブで得られる喜びに浸っていた。

「嬉しいですね。初めて3試合も勝って」

 身長186センチ、体重98キロ。4歳で母国サモアからニュージーランドへ移住し、楕円球と出会った。

 2010年に来日。2014年に山梨学院大を卒業し、コカ・コーラ加入3季目の2016年には日本代表入りを果たした。昨秋のワールドカップ日本大会にも出て、堅い防御と多彩なパス、キックで8強入りを達成した。

 甘いマスクでも知られる28歳。華美なプレーや見た目とは裏腹に、口ぶりは謙虚だ。今後の日本代表活動に向けても「神戸でいいプレーができたら、またチャンスがある」と話すのみで、なぜ華やかな動きができるのかを聞かれても「練習あるのみ」と淡々と述べる。

 それでも、話題が限定されれば身振り手振りを交えて丁寧な説明を加える。バックフリックパスについてはこうだ。

「ディフェンスが『こっち』に来ていて、そこでボールをもらったら『こっち』でパスするのは難しい。だから、後ろから投げる」

 ひとつめの『こっち』の時は伸ばした両腕を自身の胸元に寄せ、防御に真正面から迫られる様子を表現。ふたつめの『こっち』の時は、防御がいる前で通常の胸元でのパスを放つしぐさをしてみせた。

 自身の身体と相手の身体との間が狭ければ、胸元で腕を振ってのパスが「難しい」。だから背中の後ろで腕を振るというのだ。

 投げる方向は、球をもらう前にイメージしていそう。それは、相手とぶつかりながら投げるオフロードパスについての談話を聞けば明らかだ。

 ラファエレはまず、神戸製鋼には「オフロードパスのうまい選手が多い」と回答。密集戦で身体を張るFWも高いパススキルを持つ点に触れ、「コミュニケーションをしっかりリレーしているのも大きい」と続ける。

「プレーが起こる前から、どこのスペースを突くべきかを全員で共有しているんです。もし、スペースに誰かが走ったら、ボールキャリー(手にしたボールをどうつなぐかなどの)の判断は簡単になります。(神戸製鋼では)皆が、スペースに走っている」

 神戸製鋼ではそれぞれが素早く所定の立ち位置につき、相手の立っていない区画を探索。その延長で互いに声を掛け合い、「どこのスペースを突くべきか」を判断しているようだ。

 ラファエレが子どもたちの真似したがるパフォーマンスを披露できるのは、個人的にも組織的にも合理的な判断ができているからなのだ。

 試合序盤にイージーミスを犯した場合も、「引きずらない」という性格もあってか時間を追うごとに好プレーを披露できる通称ティム。3月14日に再開見込みのリーグ戦では、チームの連勝を7に伸ばしたい。

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