コラム 2019.12.13
ヒーローになろうよ。 ~ある地域リーグ入れ替え戦の物語

ヒーローになろうよ。 ~ある地域リーグ入れ替え戦の物語

[ 中川文如 ]
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ICUを導いた藤森啓介

 泣き崩れる選手の肩をマネジャーが笑顔でねぎらうのが、いまっぽい。最後の円陣。後輩から先輩へ。部員から藤森へ。ささやかな花束が手渡された。素直な笑顔が、今度は全員に広がった。
 秋には手製のお守りがマネジャーから選手へ、感謝をつづった色紙が選手からマネジャーへと贈られていた。互いへのリスペクトを、照れもなく自然と表現できる集団になっていた。
「一つのチームになる。その意味を、改めてこのチームから学びました」。ちょっと涙目の藤森が穏やかに言った。
 89点差は3年間で11点差に縮まった。佳境を迎えるラグビーシーンの片隅で、素人集団がヒーローになりかけた物語。まばゆいスポットライトは当たらなかったけれど、それでも唯一無二の輝きを放った物語が幕を下ろした。

 数日後、部員から藤森に届けられたメッセージはどれも熱かった。
「負けることしか知らず、あまりラグビーに興味のなかった集団が、勝利のため、チームのため、チームメートのために努力できる集団になれた」
「勝つ喜びを知った。だからなおさら、最後、勝てなかったことが悔しい。来年は勝ちたい」
 きっと、物語には続きがある。

 忘れたくない余話がある。
 藤森とICUを結びつけたのは伊佐櫻子というマネジャーだった。幼なじみで早実出身の早大生アナリスト・井坂航を介し、みんながつながって、奇跡のレッスンのような成長は始まった。
 伊佐の名前の櫻の一文字、ジャパンの胸に咲くサクラに由来する。お父さんが大のラグビー好きで、そう名づけられた。寒風の吹きすさぶ秩父宮ラグビー場へ、よく親子で観戦に出かけた。気がつけば、マネジャーになっていた。
 こういう人たちに、日本のラグビーは支えられている。

【筆者プロフィール】中川文如( なかがわ ふみゆき )
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップフランス大会の現地取材などを経て、ラグビー担当デスクに。2019年ワールドカップ日本大会は会社に缶詰めとなり、数々の名場面を見届けた。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。

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