ヒーローになろうよ。 ~ある地域リーグ入れ替え戦の物語
ゴール。むしろ、それはいわゆる戦術論ではない部分でこそ大切だというのも藤森の信念だった。何のためにラグビーをするのか。ただ楽しみたいからか、うまくなりたいからか。いや、違う。
チームビルディング、チームトークを徹底。部員に考えさせた。部員は考えた。例えば「つきあいたい人は?」とか何でもいいからテーマを決め、コミュニケーションを図る。1年生と4年生、選手とマネジャー。あまり会話をかわす機会を持たなかった関係の部員が、嫌でも話すようになる。
すると、気づいた。マネジャーは選手に、試合に出られない選手は出られる選手に、思いを託すしかない。託された選手には、その思いに応える責任があるのだと。
誰かのためなら、人って想像以上に頑張れる。誰かのために頑張れるのは、カッコいい。壁を乗り越え、最後に勝ってヒーローになって、託し、託された思いを完結させる。藤森とチームが描いたストーリーだった。
マネジャーはパス練習の相手までしてくれた。控え選手は試合の映像を撮影してくれた。「みんなのため、勝ちたい。昨季までなら、そうは思わなかった」。主将のFB川口諒太は振り返る。「勝つために、一つのチームになる」。ワンチームという言葉が流行する前からの決意だ。そうやってたどり着いた入れ替え戦だった。
12月8日、駒沢補助競技場。観客席はない。澄んだ冬空の下、集まったのは関係者や選手の家族ら50人ほどだった。
FWの胸の厚さ、足の太さは明らかに劣っていた。相手ボールスクラムを10メートル以上も押される。力業を浴び、いきなり2トライを失った。0-12。
でも、心は折れなかった。小よく大を制するための術を携えていたから。根拠に基づいた準備を重ね、勝利への細い細い道筋を明確にイメージできていたからだった。
体力の消耗を抑えるため、スクラムを組む時間は極力減らしたい。だからマイボールはNO8が投入、エイトの位置に入ったSHが素早くさばく。ラインアウトは1度、2度とおとりを入れて迷彩を凝らして確保する。
限られた好機、クラッシュは無粋。ドリブルではなく、位置取りとパス交換で抜くバルサになるのだ。タッチライン際で必ず相手との2対1ができるように選手は散る。見ていて冷や冷やする大外へのロングパスも、実は理詰めなのだ。
3トライを奪い返し、19-12と逆転。二つは高速パスアウトのスクラム、一つはダイナミックな運動量に裏打ちされた逆襲が起点だった。
ハーフタイムの円陣。藤森は選手に語りかけた。
「さあ、ヒーローになろうよ」
後半、PGで3点を積み上げた。点を取れる時に取るのは勝負の鉄則だ。しかし、25分を過ぎたあたりから疲れは隠せなくなった。足をつる。低く低く刺さり続けていたタックルが刺さらなくなる。捕まえたはずの腕をふりほどかれる。再逆転を許し、最後は22-33と点差を開けられた。