国内 2019.11.25

明大対帝京大を「鍼灸」にたとえたら? 40-17の実相。

[ 向 風見也 ]
明大対帝京大を「鍼灸」にたとえたら? 40-17の実相。
明治大と帝京大が激しく激突。2敗目を喫した帝京大は、関東大学対抗戦A連覇は8でストップ(撮影:大泉謙也)


 11月24日、東京・秩父宮ラグビー場。

 ここまで4勝1敗の帝京大は、相手ボールキックオフからしばし継続して球を蹴り返し、ハーフ線上で鋭いダブルタックルを浴びせ続ける。開幕5連勝中の明大によるダイレクトプレーを、やや後退させたような。

 先陣を切って刺さった右PRの細木康太郎は、試合前の段階で左目の上に大きなあざを作っていた。「昨日の練習で少しハードにやっていて」とのことだ。

「試合を意識していかないといけないので、短い時間で強度の高い練習を。いままでの帝京大にガツガツいけない選手がいるという特徴があったなか、早大戦(11月10日、32-34で惜敗)で挙げたキーワード通り、それぞれのファーストコンタクトで勝ちに行くことを意識した」

 驚かされたのは、明大がすぐに次善策を打ち出したことだ。自陣10メートルエリア右の接点からLOの箸本龍雅が球を預かると、近くにいたHOの武井日向主将にショートパス。防御ラインを破った。

「映像を観ていると、(帝京大は)ダブルタックルにめっちゃ入ってくるチーム。あそこでも(防御ラインのやや)外側の選手が自分を狙ってきているのがわかった。横にいた日向さんもしっかり準備、意思疎通してくれていて、本当に寄ってきて…。あ、パス、効くなぁって」

 以後も明大は帝京大の防御をいなし、最後はFBの雲山弘貴が先制トライを決める。ゴールキック成功で7-0。ここでスコアをお膳立てしたのは、左PRの安昌豪。敵陣22メートル線付近の攻撃ライン上、手前のFWの選手が防御を引き付けるなか、右から左へ手にした球をスペースに放った。

「FWのオプションのひとつ。練習してきたことが、試合でもいいコミュニケーションのもとに出せた」

 細木はこうだ。

「ノミネート(防御時のポジショニング)で1人が(相手の)1人を見れていない。ガツガツ行く部分はいいけど、コミュニケーションなど細かな部分が、練習中でもできていない」

 大学選手権2連覇を目指す明大は、その後も一昨季まで9連覇の帝京大を凌駕。立ち上がりのシーンに象徴される、組織的な積み上げをスコアにつなげた。

 14-3と明大がリードして迎えた前半20分以降は、SOの山沢京平が分厚いチェイスラインの裏側に絶妙なキックを転がしたり、一転、ランとパスを織り交ぜて帝京大の反則を誘ったり、さらにはSHの飯沼蓮が、攻守逆転した直後に高い弾道のキックを蹴ったり。意思決定者が陣地を奪う選択には、周りの選手も呼応。首尾よく敵陣に居座った。

 さらにスクラムでは、帝京大が本郷泰司主将を本職ではないFLにつかせていたのもあって明大が優勢。前半36分にWTBの山村知也が決めたトライは、こうした事象の化合物と言ってもよかった。19-3。箸本は続ける。

「雲山とか、京平とかが敵陣でプレーさせてくれたのが勝因。キックカウンターの練習は特にしていないんですけど、BKがFWを勢いづかせてくれた」
 
 徐々に点差を広げてからも、明大は帝京大の穴へアメーバのように侵入してゆく。相手の落としたボールを拾えば、スペースのありかへ瞬時に球をつなぐ。「ルーズボールのことは練習中、言い合っています」と箸本。夏合宿中に慶大との練習試合を落とした背景を踏まえ、「ルーズボールを獲得すればいいアタックができる。逆にとられたらこっちのディフェンスもばらばらになる」と反省していたという。
 
 攻防の起点となるセットプレーでは、明大が帝京大ボールラインアウトを再三スティールするなど概ね勝者優勢。ノーサイド。40-17。敗れた岩出雅之監督は、ユニークなたとえ話で実相を看破した。

「剛と柔というか。この柔は『柔らかいプレー』という意味じゃなく、ちょっとしたかみ合わせ、反応、連係とか…。鍼灸で例えると、(帝京大は)外れたところに思い切り強く打っているところがあって。外さないでプチっと打つ精度という意味じゃ、普段の練習の甘さもまだまだ出ていますし、チームの甘さが出ている」

 これで明大は6勝0敗。12月1日の早大との最終戦を全勝同士で挑めるうえ、武井は「準備したことをやりきったことが勝ちにつながったのはいいと思うんですけど、(失点した)後半の入りなど、まだまだ課題は残る」と謙虚さを保つ。

 かたや帝京大も、「練習でのミスと同じミスをしていますからまだまだ甘い。でも、やっとこのチームは成長する兆しを自分たちで持ってきた」と岩出監督。もともとタフさが長所の明大にぶつかり合いで対抗できたことなどを受け、ここにきてのボトムアップを実感している。

 快勝した側も歩みを止めず、敗れた側も内なる手応えをつかんでいる。12月中旬以降の大学選手権は、よい意味で荒れそうだ。

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