コラム 2019.09.25
【ラグリパWest】ラグビーの伝道師。 横井章

【ラグリパWest】ラグビーの伝道師。 横井章

[ 鎮 勝也 ]
【キーワード】,



 横井の基礎は早大での学びである。当時の監督・大西鐡之祐を卸し元とする「接近、連続、展開」だ。アタックの際は、クラッシュするギリギリまで迫る。守備者を殺しパスを出すことで、攻撃を連ねる。最後は素早く大外にボールを運びトライを獲る。

 ディフェンスは「シャロー」と呼ばれる飛び出す型を推奨する。特に若年層においては、プレッシャーの下での正確なプレーの難しさを知っているからだ。
 これらは体が小さくて非力な日本人が外国人に勝つために編み出された理論でもある。

 その具現者として横井は素人にもかかわらず早大の1年から公式戦に出場した。
 日本代表キャップは17。当時は国同士のテストマッチが少ない時代で、代表入りした1967年から8年間のキャップ対象試合は19。欠場の2試合はケガだった。主将もつとめた横井は常に桜のジャージーの中心にいた。

 1968年6月3日、ニュージーランド代表の下に位置するオールブラックスジュニアを23−19で破る。世界を驚かせた一戦では、当時3点だったトライを6つ奪った。横井はパスで4アシストと1トライを記録している。

 現役を引退してから定年までの間、ラグビー指導は一切しなかった。就職した三菱自工(現三菱自動車)で仕事に専念した。
「会社には好きにラグビーをさせてもうたから、恩返し、という思いが強かったね」

 横井には9歳上の兄・久がいる。その兄は早大や日本代表の監督をつとめた。
「兄弟2人がラグビーに関わるっていうことにも、なんとなく抵抗があったんや」
 2つの理由に風儀のよさがにじみ出る。

 還暦からのコーチングではあるが、たたき上げのみの古さはない。世界のラグビーを映像などで見て、アップデートを続ける。ワールドカップで日本と対戦する世界ランク2位のアイルランドの強さは分析済みだ。
「あのチームは選手を国外に出さないやろ。できるだけメンバーを固めて、同じ練習を繰り返す。そうすることでミスが少なくなる」

 横井のよさはその理論を押し付けないことにもある。人数を割って持ち場を決めるポッドをチームが採り入れているなら、それに沿ってFW戦なども提案する。引き出しの多さは経験と多年の研究によるものだ。

 主将のCTB岩佐拓郎は3日間のコーチングに満足感を漂わせた。
「1年の時よりも言っていることがわかるようになりました。僕たちのラグビーが強い相手にどこまで通用するか楽しみです」

 浮羽究真館はシード校のため、全国大会の県予選は10月20日の4回戦から登場する。2つ勝てば準決勝で東福岡と対戦する。そうなれば3度目の挑戦になる。

「だいぶその気になってきよった」
 横井はニヤリとする。体重が130キロ近くあるPR江藤友紀がOBではなく、ケガ人と知るや、その目の輝きは増した。
「これはええで。なんでって? スクラムが安定するからや。大事なことやんか」

 横井は16日の午前中でセッションを終えた。帰りは久留米から乗った新幹線を小倉で途中下車する。関門海峡を臨む城下町で、早大の1961年度入部の同期である大塚健治郎、吉田通正と昼食を摂り、旧交を温めあった。
 横井のラグビー伝道にはこういう楽しみもついてくる。


PICK UP