南アフリカ代表と再戦。日本代表の稲垣啓太は「左腕」に注意。
9月20日からのワールドカップ日本大会を前に、世界のラグビー界が注目する一戦が始まる。世界ランク10位の日本代表は9月6日、埼玉・熊谷ラグビー場で同5位の南アフリカ代表と対戦。4年前のワールドカップ・イングランド大会では、過去優勝2回の南アフリカ代表から日本代表が勝利。「史上最大の番狂わせ」と世界的に知られた。
もっとも、当時もプレーして今回左PRで先発する日本代表の稲垣啓太は、「ただ、あの試合はあの試合で、完結しているんじゃないですか」とさらりと述べる。論理的な語り口で、展望を語った。
「素直にいい準備ができたと思いますね。一人ひとりが何をどうしなきゃいけないか。100パーセント整えることができた。明日、選手だけでキャプテンズランをする。ここでプラス1パーセント、ディテールを確認したい」
話をしたのは9月4日。移動を直前に控え、都内ホテルで準備状況を説明する。5日の前日練習では、空中戦のラインアウト、FWが8対8で組むスクラムといった、自らが関わるプレーに関しての「ディテール」を確認したいという。
「ラインアウトのタイミング。グラウンドが変われば感覚が――特にHOが――変わるので、そこを。芝生は、スクラムを組む人間にとっては重要になります。当日、どういった長さのスパイクを履くべきなのかなどのディテールも見られる」
対する南アフリカ代表は巨漢ぞろいで、スクラム大国のひとつとされる。次戦でも先発FWの平均体重で日本代表を約6キロ、上回る。
日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは、ワールドカップで戦う相手もフィジカル自慢ばかりであることから、今度のゲームを経験することで「(ワールドカップに)備えられる」と強調。では、実際にスクラムを組む稲垣は、南アフリカ代表とのバトルをどう見ているのだろう。
「相手はスクラムでもプレッシャーをかけるでしょうね。とにかく向こうはペナルティが欲しい。では僕らはペナルティを与えないようにしたい。ただ、ペナルティを与えないようにとなると、受け身になる。スクラムでもラインアウトでもモールでも、アタックするマインドで取り組みたい」
2016年秋以来、日本代表は長谷川慎スクラムコーチのもと互いが小さく密着する「力を漏らさない」というシステムを遂行。今年の代表戦ではその低い姿勢がコラプシング(塊を故意に崩す反則)を取られる遠因となってしまっていたため、大会登録メンバー決定前のキャンプ(北海道・網走)では全体的な高さや相手との距離感を微修正。南アフリカ代表戦のスクラムも、大会中に出会うレフリーの印象を変えるきっかけとしたそうだ。
最前列左の稲垣は、「左腕の使い方」にも気を付けたい。
「相手の3番(右PR)が右手を絞るようにこちらを落とし、ペナルティを狙うとする。そこで、僕としては左手をしっかり上げる。また、なるべく(相手の)近い位置をつかむ。もし落ちてしまっても(レフリーに)悪い印象を与えないのが、僕の役割でもあります」
加えて「足の使い方」もチェック。「8人で組むので、16本の足が地面に刺さっている(のが理想)」という長谷川式の原則に沿って、こんなイメージも口にした。
「前に出る時は、この16本が一気に力を加える。多少、横に動いた時、1人ずつ片足をバタバタさせていては、16本のうち8本の足が地面についていないわけで、それではなかなか力は伝わらない。16本の足の使い方は、この1週間ディテールを確認しました。加えて、南アフリカ代表は1番(左PR)が前に出るスクラムをよく組む。その時、僕は3番(日本代表の具智元、ヴァル アサエリ愛)を助ける。スクラムの方向性を整える。イリーガルなスクラムが来た時は左右へのプレッシャー(揺さぶり)も来ると思いますが、ここで(後ろに入る)LO、FLも足をバタバタさせない(のがマスト)。16本の足でプレッシャーをかける」
すべきことを信じ、すべきことが首尾よくできるよう事細かに準備する。現日本代表のリーダー陣の1人でもある稲垣は、細部のつばぜり合いについても明確な言葉で指針を述べる。
取材では4年前の勝利についても聞かれた。あの一戦を終えた瞬間、会場のブライトンコミュニティスタジアムで稲垣は涙を流している。本人は「泣いたことないんですけどね、って、言っておきますけど」としつつ、やはり淡々と続けた。
「あの時は『ビート・ザ・ボクス』という南アフリカ代表を倒すためだけの練習をずっとやってきて、それをやれば勝てると教え込まれ、僕らはそれをやるしかないと、試合に乗り込んだんです。内容的にはヒリヒリした展開で、最後の最後に決めて終了(ノーサイド直前に34-32と逆転勝利)。僕らのやってきたことが間違いなかったと証明された。(今回は)南アフリカ代表ということで観客の雰囲気は違うでしょうし、それは僕らも試合会場で国歌を歌う時に感じるかもしれない。ただ、それでもやるべきことは変わらない、というスタンスですね」