その他 2019.08.16

伊藤宏明×斉藤祐也 ラグビーのライブ解説で新たな試み

[ 向 風見也 ]
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伊藤宏明×斉藤祐也 ラグビーのライブ解説で新たな試み
伊藤宏明さん(左)と斉藤祐也さん

 新たな試みがあった。

 8月10日夜、都内スタジオ。備え付けのテレビ画面には、ダブリンのアビバ・スタジアムが映る。

 アイルランド代表とイタリア代表とのラグビーのテストマッチをオンライン上スポーツチャンネルのDAZNで流すのだ。ヘッドホンをはめるのは斉藤祐也さんと伊藤宏明さん。いずれも元日本代表選手で、斉藤さんはフランス、伊藤さんはイタリアでプレー経験がある。明治大学では斉藤さんが1年の時に伊藤さんが3年。厳格な上下関係があった当時のクラブにあっても、2人は仲が良かったようだ。

 オンエア開始は21時49分。実況の谷口廣明さんの問いかけに応じ、斉藤さんが口を開く。

「きょうはこの試合を楽しむと同時に、宏明さんとの解説を楽しみたいですね」

 仲の良い2人がメディアを通して試合を語り合うのは今回が初めて。なにせ、伊藤さんが解説業を務めるのはこの日が初めてだったのだ。後に「試合を観ながらしゃべる」ことの難しさがあったと語る伊藤さんだが、両軍の過去のゲームをチェックするなど準備は万端。試合2日前に発表された当日のメンバーが、今秋のワールドカップ日本大会のスコッド争いで当落線上にいるのももちろん把握。展望を問われ、こう応じた。

「手の内は全て見せないと思いますが、どんなベーシックなアタックをするのかや、選手の特徴を把握するのにはすごくいい(試合)でしょうね」

 新たな試みとは、2人が初めてこの場に並ぶことだけではない。DAZNは今夏のラグビー代表戦で、ツイッターとの連動企画を動かした。実況の谷口さんがハッシュタグ付きの視聴者の質問を拾い、熱戦を見つめる2人の解説者が次々と応えることとなったのだ。

 試合はイタリア代表のキックオフで始まり、ひとつ目の質問が読まれたのは前半14分頃。アイルランド代表が5点差を追うなか、「いまだからしゃべれる大学時代のエピソードは」と来た。

「あり過ぎてどこまでしゃべっていいか」と斉藤さんが苦笑するなか、伊藤さんは「祐也は部屋っ子(寮の同部屋)なんです。でも祐也はなかなか働いてくれなくて、仕事はもう1人の1年生にすべてを頼む…」。すると斉藤さんは、当時「宏明さん」だった呼び名を「伊藤ちゃん」に変える。

「伊藤ちゃん、これ、流れてますからね! …ただ、当時は上級生に下級生が話しかけちゃいけなくて、あまり話していないんですよ」

 和やかな進行のさなか、伊藤さんがラグビーの観方を伝えてくれたのはアイルランド代表の得点シーンだった。

 17分、アイルランド代表は敵陣ゴール前でチャンスを得るや、クラッシュ、またクラッシュの繰り返し。ここから一転して、おとりの選手の後ろへ深い角度のパスを放つ。最後はスタンドオフのジョーイ・カーベリーがトライとコンバージョンを決める。7-5。

「この地域でのディフェンスは前の(に立つ)選手を特に見て、前に出てくる。裏へのパスは、非常に効いてきます」

 アイルランド代表は、7-10と勝ち越された29分にもテンポよいパスワークでイタリア代表をいなす。接点で勢いよく相手を巻き込みながら、大外のスペースへゴールラインと平行に近いパスをつなげてゆく。デイブ・カーニーのトライなどで14-10。

「イタリア代表は近場(接点周辺)のディフェンスが強いです。ただ、いまみたいに外のスペースへボールを運ぶとほころびが出る。もう少しワイドに動かしてもいいのかなと」

 2人はこの後も、戦況に沿ってゲームプラン、細かなスキルについて話すかたわら、素朴な疑問に答えてゆく。

 まず23分頃。「ヨーロッパ勢の一番の強みは」との質問を聞く。伊藤さんは「セットプレーも強みですが、キックの使い方も上手ですね」とし、斉藤さんは「スクラム。私がフランスにいる間もスクラムにこだわっていましたね」と続ける。

 ハーフタイムには「ワールドカップで日本代表が勝つには」と問われる。

 今秋開幕のワールドカップ日本大会で、アイルランド代表は日本代表と同プール。ファンの関心は高まっているのだ。

 斉藤さんは、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表の戦いを踏まえて言う。

「キックを駆使しながら戦うなか、その部分(どれくらい蹴るか)のゲームコントロールが大事になる。いまの日本代表は対戦相手によって戦い方を変えられる。ボールキープ力の高いアイルランド代表に対してはポゼッション(ボール保持率)を高めながら確実にスコアして戦うのも大事ですね」

 モニターのなかでは、19-10のスコアで後半に突入したアイルランド代表がさらに加点。控え主体の先発勢にあって希少なレギュラー格、アウトサイドセンターのギャリー・リングローズが中盤右のスペースを切り裂く。味方にパスをつなぎ、再度ボールを受け取る。敵陣ゴール前へ進む。イタリア代表の反則を誘うと、強力なフォワード陣がそのままモールを押し切った。24-10。

「イタリア代表のフォワードが疲れてきたかな…」

 斉藤さんがつぶやくと、「おふたりが日本代表のヘッドコーチだったら、アイルランド代表にどのようなプランを打ち立てて勝ちに行きますか」という声が紹介される。

 伊藤さんは「難しいですね。(前回大会終了後からの)4年間という時間をどう使うか(も考慮)に入ってくる。どの選手を鍛えてどの選手を使うか…。いま現在のことを言えば…」。斉藤さんが合いの手を入れる。

「…黙っちゃってますね」

 伊藤さんがつなぐ。

「僕自身は速い展開のラグビーが好きなので、そういうチームを作っていきたいですが。私が海外に行った時も、日本のラグビーはクイックだと感じました。そこを特徴として出していきたい」

 試合終盤は、アイルランド代表の防御が光った。ボール保持率を高めにかかるイタリア代表に対し、アイルランド代表のタックラーはすぐに起き上がる。鋭くせり上がる。手詰まりになったイタリア代表は短いキックなどで活路を見出そうとするが、その後のこぼれ球の処理でもアイルランド代表が素早く反応。今度はアイルランド代表がスペースへ好キックを蹴り返す。向こうのミスや反則を誘いながら、時間を費やしてゆく。

 質問はこれだ。

「おすすめの筋トレって、ありますか」

 スタジオからは笑いが漏れる。斉藤さんはこうだ。

「いまね、腕立てやっていますよ。あるドラマに出ることになったのですが、グラウンドに出る状況が多くて待ち時間が長いんです。そこで腕立てを始めました。体幹も使えますし、姿勢を保てばバランスよく筋肉がつきます。器具を使わないので、怪我もしにくいですね。…現役の時は、伊藤さんと一緒にウェイトトレーニングをしていました。ベンチプレスの後に腕立てをするのを思い出しました!」

 結局、アイルランド代表が29-10で勝利。硬軟織り交ぜた解説はあっという間に終わる。
 伊藤さんは「キックの使い方と処理の仕方が点差に現れた」と試合を総括しつつ、控室で初解説を振り返った。

「難しかったですね! コーチとして(試合映像を)観る時は同じところを何度か繰り返してチェックしますが、(生解説では)そこまで繰り返して観られないので。でも、いい経験でした。おもしろかったです」

 パートナーを務めた斉藤さんは、「安心してできました」とほほ笑む。

「(試合中)なぜこういう状況になっているのかを的確に判断してくれるので」

 SNSでの質問について「試合が硬直状態になった時にくだけた話題があったり、視聴者が疑問に思ったことを聞けたり。非常にいいと思います」と笑顔。これには伊藤さんも「ラジオみたいだったよね」と応じる。斉藤さんは続ける。

「ここで、なんであんなプレーが起きたの? という質問があったら、よりおもしろくなったかもしれません。ラグビーを知らない人にとっての『こういうことが知りたい』に沿って解説ができたら理に適ってきます。逆に、ラグビーが大好きな方からならどんな質問が来るのかにも興味があります」

 同席の関係者も「時間帯によって募集する質問を絞ってもおもしろいかも」。より視聴者の知見を引き出せる枠組みを考えそうだ。いずれにせよ、今後のラグビー中継のスタンダードが変わるかもしれない。

 なお伊藤さんと斉藤さんのコンビ解説は、9月7日にもDAZNで聞ける。日本時間22時キックオフのアイルランド代表×ウェールズ代表戦だ。

<サマー・インターナショナルズ 2019ライブ配信予定>

●ウェールズ vs イングランド 8月17日(土)22:15~
●スコットランド vs フランス 8月24日(土)21:15~
●イングランド vs アイルランド 8月24日(土)23:00~
●ウェールズ vs アイルランド 8月31日(土)22:30~
●スコットランド vs ジョージア 9月7日(土)3:30~
●イングランド vs イタリア 9月7日(土)3:45~
●アイルランド vs ウェールズ 9月7日(土)22:00~

※ 全試合日本語実況あり。
※ 時間はすべて日本時間。

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