【コラム】ふたりのフルバック。
東福岡高校を離れて15分後。福岡空港で19歳のフルバックに会った。
田口弘煕(ひろき)。
フランスの最高峰リーグ、トップ14の下部にあたるPRO D2に所属するヴァンヌのU22チームでプレーしている。
故郷・福岡で中学校を卒業し、単身で渡仏して3年。異国の地でたくましく生きている。
田口の目が海外に向いたのは7歳のとき、2007年だった。
同年のワールドカップで3位に躍進したアルゼンチン代表のSO、ファン・マルティン・エルナンデスに憧れ、父・辰二さんに「将来はアルゼンチン代表になりたい」と言った。
5歳のとき、父がコーチを務めていた平尾ウイング(ラグビースクール)に入った。その後、城南スポーツクラブで中学までプレーを続ける。中学3年時はシャルマンRFC(合同チーム)で試合にエントリーし、そこでの活躍が認められた。福岡県中学選抜の一員となり、全国ジュニア大会にも出場した。
選抜の仲間たちが東福岡など強豪校に進学するタイミングで、別の道を歩み始めた。
アルゼンチン代表になりたい思いは、「将来、プロのラグビー選手としてプレーしたい」に変化していた。「世界と戦いたい。だから、はやく体感したいと思いました。フランスのトップ14は南半球のトップ選手が目指す。だから、その人たちが向かうところに最初から行こう、と」
16歳で海を渡る。フランスのほぼ中央に位置するヴィシー(Vichy)に暮らし、クレルモン=フェラン大学の語学学校へ。現地のクラブチームでプレーした。
そこで1年過ごした後、クラブのアルゼンチン人コーチの紹介で英国寄り、ブルターニュ地方のヴァンヌ(Vannes)に移籍する。
ワンランク上のクラブに移り、いま、渡仏して3年が経ったところ。シーズンオフに帰郷している機会に、近況を伝えてくれた。
ヴァンヌに所属してから、試合給をもらえるようになった。1試合で50ユーロほど。日本円にして約6000円だ。2018-2019シーズンは約20試合のうち半分ほど出場した。
同じカテゴリーでプレーしている選手も、クラブとの関係はそれぞれだ。その中で、決して金額は多くないがプレーへの対価を手にできるのだから、クラブに必要とされている。
来季は試合ごとの支払いはなくなるが、月ごとのサラリーを手にできる見通しだ。ホームステイ先から独立し、一人暮らしも始める。「勝負の年」と思っている。