各国代表 2019.06.21

幻と消えた「ネーションズ・チャンピオンシップ」

[ 竹鼻智 ]
幻と消えた「ネーションズ・チャンピオンシップ」
ワールドラグビーのビル・ボーモント会長(左)とアグスティン・ピチョット副会長(Photo: Getty Images)

「世界のラグビーを次のレベルへ」と銘打ち、ワールドラグビーによって提案された、「ネーションズ・チャンピオンシップ」。基本路線としては、シックスネーションズ(欧州6か国対抗)と、ラグビーチャンピオンシップ(南半球4か国対抗)の参加国10チームに、ティア2国(中堅国)を2チーム加えて、12チームで世界のラグビーの1部リーグを構成する、という構想。しかしながら、昇降格制度の是非という大きなポイントでシックスネーションズ参加国の同意を得られず、ワールドラグビーは、この構想を断念すると発表した。

 各国の利害関係が絡まり、世界中のラグビーファンに構想が知られた時点から、大きな波紋を呼んだこの構想。始まりは、ワールドラグビーによる正式発表前の、今年2月。ニュージーランド・ヘラルド紙がその内容をリークし、世界のラグビーファンを騒然とさせた。このリーク情報によると、想定された1部リーグの12か国にはパシフィック・アイランド諸国が一つも入らず、世界ランキングでは下位につけるアメリカの名前が。これを受け、パシフィック・アイランド諸国がワールドカップ参加へのボイコットをちらつかせるなど、大きな波紋を呼んだ。

 事態を収拾させる為、ワールドラグビーは3月に本部があるアイルランドのダブリンで緊急ミーティングを開催。日本と共に1部リーグ入りするのは、アメリカではなくフィジーとなると発表し、一旦、パシフィック・アイランド諸国の怒りを抑える。そのかたわら、英語圏や日本のメディアではあまり注目されないながらも、世界ランキングで12位近辺の実力を誇るジョージアはその不満を露わに。「後進的で傲慢、自分の目先の事しか見えない、ワールドラグビーの数人の愚かな幹部が考えたものだろう」とは、ジョージアラグビー協会のゴシャ・スバニドゥゼ会長の言葉。

 そして、ティア2国から1部リーグに参加する2つの枠よりも更に決定的な問題が、昇降格制度の是非。結論として、シックスネーションズ参加国のうち、アイルランド、スコットランド、イタリアが、昇降格制度を必須とするこの構想に反対し続け、「ネーションズ・チャンピオンシップ」は幻に終わった。

 プロスポーツとしてのラグビーを、「次のレベルへ」と持っていく事をその理念の一つとした、この構想。ワールドラグビーは、FIFA元会長のセップ・ブラッターの甥、フィリップがバイス・チェアマンを務めるスイスのスポーツマーケティング会社、インフロントによる、12年間で61億ポンド(約8320億円)の資金投入も発表していた。この発表は、昨年プレミアシップの27%の株式を2億ポンド(約280億円)で購入し、シックスネーションズの30%の株式を5億ポンド(約700億円)での購入を提案中の、ルクセンブルクのプライベートエクイティファンド、CVCパートナーズの動きに対抗するものと見られている。昇降格による不安定要素はビジネス上の旨味を損なう要因となり、CVCパートナーズは、プレミアシップからも昇降格制度を廃止しようとする動きの後方支援もおこなっている。

 また、ワールドラグビーは、構想断念発表の数日前に「10か国の満場一致が必要」とのコメントを出している。ティア2国を意思決定プロセスに含めないなど、世界のラグビーが抱える、構造的な「ティア格差」を浮き彫りにしている。そして、欧州3か国の昇降格制度反対には、ビジネス面での懸念が大きな理由としてある。「世界のラグビーを次のレベルへ」と銘打ったこの構想は、今日の世界のラグビーが抱える複雑な利害関係をより鮮明にする、なんとも皮肉な結果となってしまった。

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